ピーター・ラヴゼイ著、中村保男訳
1921年、元奇術師で現在は歯医者のウォルターと、彼と愛し合うようになった花屋の店員アルマ。しかしウォルターの妻である女優のリディアがハリウッドへ行くと言い出し、ウォルターの歯科医院も売り払ってしまった。ウォルターとリディアはアメリカへ向かう客船を利用してリディアを殺害する計画を立てた。しかし航海中、見知らぬ女性が遺体で発見された。ウォルターは名刑事のデュー警部と勘違いされて事件解決を期待されてしまう。名作と名高いのも納得の面白さ。本格ミステリとしてのプロットの良さ(あれはどうなっているんだろうと思っていたら最後にあっ!と)はもちろんなのだが、各キャラクターの造形がいい。いわゆる普通に「いい人」は全然出てこず、日和見だったり思い込みが激しかったり、とにかく自分勝手な人が多くてお近づきになるのは遠慮したくなる。人間のよくある欠点ばかりを辛らつ(特に女性の造形は辛らつ)に書いているが、ユーモラスで下品にはなっていないところが強みだと思う。ミステリとしては、本筋部分だけでなくちょっとした挿話の部分までしっかりひろっていくので、充実感あり。名匠の技。