ヘルツォーク傑作選2011にて鑑賞。ヴェルナー・ヘルツォーク監督1999年の作品。監督の作品5本に主演している俳優クラウス・キンスキーとの、長年の交流を描き、俳優としてのキンスキーを分析するドキュメンタリー。
 「長年の交流」というと何か心温まるものがありそうだが、ヘルツォークとキンスキーの「交流」は何とも激しい。怪優として有名なキンスキーは、プライヴェートでもいわゆる変人だったようで、人好きがするとは言い難い人物だ。ヘルツォークとキンスキーは、10代の頃たまたま同じ下宿に住んでいたそうだが、その頃からキンスキーの奇行(そして役者バカぶり)は有名だったようだ。激しやすい性格で、『フィッツカラルド』撮影中に共演者をあわや殺してしまうところだったそうだ。反対に、共演した女優たちからは、気難しいがシャイで優しいという話も出ており、乱暴さと繊細さの両面が極端に表出する人だった様子が窺える。
 ヘルツォークは彼の極端さを俳優の資質としてかったのだろうが、2人ともクセの強い人間なだけに、現場では確執が絶えなかったようだ。『フィッツカラルド』撮影中、嫌気がさして帰ろうとしたキンスキーを、「帰るなら殺す」とヘルツォークが脅した(ヘルツォーク自身の弁明によれば銃を持ち出したりはしていないそうだが)という話は有名だ。ただ、そういったごたごたが絶えず、お互い憎み合っていたにも関わらず、ヘルツォークはキンスキーを起用するし、キンスキーは最終的にヘルツォークの要求に応える。ヘルツォークが本作内で認めていたように、彼の映画にはキンスキーの狂気で完成される部分があり、キンスキーの中の狂気を最も引き出すことができるのがヘルツォークだった。2人はお互い存在で、映画監督・俳優としての敬意はおそらく双方が持っていたのだろう。
と にかく2人のエピソードが強烈すぎて、どんな愛憎物語だよと突っ込みたくもなるのだが、あくまでヘルツォーク側の視点によるドキュメンタリーなので、自分のことは棚に上げている気がしなくもない(笑)。ただ、ヘルツォークはやっぱりキンスキーに対して親愛・敬愛の念を抱いているし、こいつすごい俳優だ、という一貫してブレていないように思う。
 なお、「フィッツカラルド」に実はミック・ジャガーが出演(主演ではないですが)するはずだったという衝撃映像あり。このバージョンも見てみたかったかな~。