ヘルツォーク傑作選2011にて鑑賞。ヴェルナー・ヘルツォーク監督、1978年の作品。原作はブラム・ストーカーの小説。舞台は中世のドイツ。不動産業者のジョナサン・ハーカー(ブルーノ・ガンツ)はこの近辺に屋敷を探しているというドラキュラ伯爵を尋ね、はるばるトランシルヴァニアまでやってきた。しかし地元の人間は皆、伯爵の館には悪霊が住むと恐れ、近づきたがらない。面会したドラキュラ伯爵(クラウス・キンスキー)はジョナサンをもてなし、彼が持っていた妻ルーシー(イザベル・アジャーニ)に心奪われる。
 スタンダードな吸血鬼映画で、端整なゴシックホラーという印象を受けた。ロケ地がどこなのかはわからないが、運河のある古い町並みで(昔の町がそのまま残っていてロケに使えるというのはヨーロッパの強みだよなぁ・・・)、中世ドイツの雰囲気がいい。風景や衣装、小物などの時代劇としての要素だけでも結構楽しんだ。船で野菜売ってる人とか子供の遊びとか、こまかいところまで作っている。
 ジョナサン役のブルーノ・ガンツの若さにびっくりするが、何といってもクラウス・キンスキーが演じるドラキュラ伯爵の造形がインパクトある。顔は白塗り・坊主頭で、爪は長くとがっており、ささやくような声で喋る。顔や爪は特殊メイクだろうが、特徴的な動きや声の出し方は、キンスキーの個性あってこそだろう。動きの緩慢さと素早さのメリハリがあって、動きが妙にぴしっとしている。やりすぎてちょっと面白い感じになってしまっているような気もするが。また、イザベル・アジャーニーの風貌がザ・ゴシックホラーのヒロイン!という感じでこちらも強烈。髪型といい衣装といい、ラファエル前派の絵に出てくる女性のようだ。ものすごく浮世離れしている。鏡を利用したドラキュラとルーシーの対決場面は本作中でも名シーンだと思う。
 ドラキュラ伯爵がルーシーを求めて町にやってくる際、疫病を連れてやってくる。疫病(ペスト)はネズミの大群という形で運ばれてくるのだが、本当にネズミがぞろぞろ出てくるので、これどうやって撮影(と回収)したのか気になってしまった。ヘルツォークは本当に動物の群れが好きだな・・・。ペストが蔓延した町の様子も、棺桶が次々と運び出され、そのうち広場に放置されるようになって、やけになった人たちがパーティーを始め、非日常がエスカレートしていく。悲惨な状態なのにある種の祝祭ムードになっていくところがおかしい。悲劇も喜劇もテンションがあがるという面で一緒くたにされている気がする。
 ルーシーは夫への愛の為、ドラキュラ伯爵と対決する。彼女の愛の力はドラキュラを脅かす。が、最終的に人間の愛や勇気は、人知を超えた力、自然の力の前には大して役に立たないという思想が根底にある気がする。これが原作の方向性なのかヘルツォーク独自のものなのかはわからないが。