川本三郎著
 映画『マイ・バックページ』の原作ということで読んでみた。原作の方は著者が週刊誌記者だった当時、サブタイトルの通り60年代から70年代初頭、学生運動末期の様子を綴った、随筆集だ。映画のように1冊で一つの物語というわけではない。いくつかの随筆の部分と、著者が当事者となってしまった事件を中心にシナリオを構成したことになる。シナリオ、良くできていたんだなぁ。マスコミのあり方が今とは大分違う、というよりもあの時代のある分野が特殊だったのかもしれない。記者と、取材対象である活動家たち、学生たちとの距離が近い。その距離の問題で著者はずっと悩み、それがある「事件」によって無理やり収束させられてしまった、というように見える。そこが痛切だし、本作を書くことが著者にとって非常に苦しいものだったろうことを感じさせる。根っこのところで、新聞や雑誌のスクープ記者には向いていない人だったのかなというところがあるし(ナイーブすぎる・・・)、著者自身もその自覚はあったのだろう。アメリカ人記者との交流の話が、記者のあり方を考える上で、日米の違いが垣間見えて面白い。日本では確かに「神に預ける」という発想は生じにくいかなと思う(運を天に任せる、というようなものはあるがこれだと倫理的な裏づけは全くないもんな)。