ロジェ・グルニエ著、宮下志朗訳
題名のユリシーズは、ギリシア古典『オデュッセイア』で愛犬の姿に涙した英雄ユリシーズの挿話より。そして著者の愛犬の名前もユリシーズだった。文学の中の犬、身近な友人としての犬など、犬にまつわるエッセー集だが、愛犬家はもちろん、犬が苦手な人(私のことですが)にもお勧め。著者は愛犬家なのだろうが、犬への愛情がべったりとしたものではなく、観察の対象、文章の題材として見ているほどよい距離がある。著者の友人でもあった作家ロマン・ギャリと著者の愛犬ユリシーズについての話は、人生の不思議を感じさせた。著者のギャリとユリシーズと、両方に対する愛情が伝わるエピソードだった。両者とも(そして本著に登場する人・犬たちの多くも)既にこの世にはいない存在だからよけいに哀切なのかもしれない。ただ愛情は伝わるが、だだ漏れではなく、そこに溺れない冷静さと知性(あと教養・・・)が、本著をただの愛犬エッセイとは一線を隔したものにしている。。