クロード・シャブロル監督、1997年の作品。親子ほどに年齢の離れた詐欺師コンビを、イザベル・ユペールとミシェル・セローが演じる。2人はホテルを転々とし、泊り客をターゲットとする地道な詐欺師。しかし、マフィアの資金を持ち逃げしようとしている男と知り合ったことで、大きな勝負に出る決断をする。邦題は何やら物々しいが、原題の「Rien ne va plus」はカジノのディーラーが賭けをストップするときの決まり文句だそうだ。「これ以上はダメですよ」程度の意味。
 今まで見たことがあるシャブロル作品が、どれも不穏な空気に満ち満ちていたので、本作のコメディぽさは意外だった。冒頭、ホテルのバーで男をナンパするユペールを、ホテルマンの格好をしたセローがじっとりと見ている。ユペールは明らかに怪しい出で立ちなので(笑)、セローはもしや彼女に目を付けた警備員ないしは警官?!と思っていたら、まるでコントのように詐欺のパートナーであるというオチがやってくる。これが判明するまでの流れがすごく(もしかしたら本作内で一番くらいに)テンポがよくて引き込まれた。
 詐欺はするけど取りすぎないようにするとか、仕事で遠出の時はキャンピングカーで移動・寝泊りしているとか、詐欺仕事の細かいディティールが楽しい。セローが収支をきちんと計算しているシーンなど、ほんと地に足のついた詐欺師だなぁとしみじみしてしまう(笑)。そんな彼らがマフィアの金を掠め取るなど、分不相応にも見え危なっかしい。はたして逃げ切れるのか?!とドキドキしてしまう。
 キュート(ユペールにキュートという修飾語を使うとは・・・!)でちゃっかりとしたユペールと、短気でテンションの高い(喋り方が常に半どなり声みたいな感じ)オヤジなセローとのコンビネーションが抜群。2人は親子のようでもあり、恋人のようでもある。お互いの技量を信頼しているが、腹の底から信頼し合っているわけでもなさそうという関係性が、緊張感を与えている。他の登場人物も、どこかユーモラス。マフィアも厳しいんだかつめが甘いんだかよくわからないんだよな(笑)。
 パリからスイスの雪山、常夏のリゾート地と、観光映画のようでもある。スパスパと場面転換されて、編集がざっくりしているなと思った。エンドロールに歌がかぶるのだが、歌がエンドロールの途中で終わってしまい、しばらく無音の状態が続いた後にサビだけ繰り返し、その後また無音という大雑把さ。