弘前から大学進学で上京したものの、大学卒業後の具体的な目標も就職先もなく、バルーン作りのアルバイトで生活している陽一(藤森慎吾)。ある日カメラマンアシスタントで同郷の七海(福田沙紀)の機材を壊してしまい、弁償代の代わりにルームシェアすることに。しかし陽一の父親が事故に遭い、実家の食堂を手伝ってほしいと連絡が入る。迷いながらも帰省する陽一だが。監督は大森一樹。
 題名の通り、ご当地映画としての側面が強く、当然んがらロケには力が入っている。クライマックスが弘前の桜祭りで、青森にはまだ行ったことがないのだが行ってみたくなった。陽一の実家の食堂は、津軽そばで有名な三忠食堂という食堂の建物を実際に使って撮影しているようだ。建物の外見も屋内もすごく使い込まれた感じが出ている(特に厨房)のだが、実際に使われているものだったからか。。ちなみに私、津軽そばが関東圏のいわゆる蕎麦とは違うということを初めて知った。
 若者が諸般の事情で故郷に戻り、人生の岐路に立つというオーソドックスなストーリーと、明治時代に蕎麦やを始めた男のストーリーとが交錯していく。2つのストーリーの交錯させ方がぎこちなく、これ、どちらか一方でもいいんじゃないかなーと思ったが、終盤2つがひとつの時系列の中でぴたっと繋がる。ここはきれいだった。しかし現代エピソードの量が多すぎ、作品の尺が少々長いように思った。あと20分短くしてくれればなぁと。物語が動く契機が、誰かが倒れることというパターンも多用しすぎ。1回ならいいけど毎回それではさすがに不自然だ。
 また、出演者の演技が達者というわけではないので、長時間見ているのは正直きつい。主演のオリエンタルラジオの2人は、本業俳優ではないなりに頑張っているという印象だったが、七海役の福田が冴えない。表情のバリエーションが少なく、かわいさが半減してしまった。七海は師匠であるカメラマン(大杉漣)と不倫しているという設定なのだが、2人の間に「何かある」感が全然感じられない。七海のエピソードは総じてあまり出来がよくなかったと思う。
 かなりぎこちなさのある作品だったが、何者かになるつもりで都会に出てきたが何者にもなれずに何年も過ぎてしまったという鬱屈には、共感できるところがある。また、陽一の父親が積極的に食堂を継がせたがるのではなく、息子はまた別の世界で生きているから、とある程度距離を置いているのは現代的だなと思った。何者にもなれず帰郷した陽一に「7年間良く頑張ったな」と言うところも、今の父子関係ぽい。わかりやすい立身出世がなくなった時代なんだなと。
 なお、過去パートはベタな話ながらわりといい雰囲気。中田くんは明治時代の人っぽい顔なのかーと思った(笑)