中国で実際にあった、車2台を盗んだ青年が死刑判決を受けたというニュースに発想を得た作品だそうだ。監督はハウ・ジエ。裁判官ティエンは、娘を交通事故でなくし、妻は今も悲しみに暮れている。ある日ティエンは、車2台を盗んだ青年チウ・ウーの裁判を担当する。現行法に基づき死刑判決を下すが、近々法が改正され、新法なら死刑は免れると言う。一方、腎臓移植を待つ実業家リーは、チウ・ウーの腎臓が自分に適合すると知り、死刑後、腎臓の提供を受けられるよう手を回す。
 編集が、エリック・ロメール作品を手がけていたマリー・ステファンだそうで驚いた。また、音楽は「ミレニアム・マンボ」「四川のうた」のリン・チャン。スタッフが地味に豪華だ。映画自体も、死刑という大きな素材を扱ってはいるが、その是非を声高に問うものではない。ある死刑判決により図らずも人生の岐路に立つことになった人々の群像劇だ。抑制が効いていて、品がいい。
 何度も描かれる、ティエンと妻の食事のシーンがすごくいい。セリフはごくごく少ないのだが、2人のおかれている状況や関係の変化がとてもよくわかる。ティエンが帰ってきて、妻が料理していることに気づく場面では、それまでの2人の様子との対比で胸が詰まりそうになった。ある時から、背後でTVだかラジオだかの音がするようになったのには、ようやく日常を取り戻しつつあることを実感する。ティエンの方が料理が上手そう(凝った料理を作れそう)なところも楽しかった。料理・食事のシーンにリアリティのある映画は、それだけでちょっと満足できる。
 ティエンはあくまで法に忠実で、少々杓子定規な人だ。だが、娘を亡くして妻が悲しみ続けていることで徐々に変化していく。チウ・ウーの死刑が直接の契機というわけではないだろう。彼の変化をあからさまに描くのではなく、ちょっとしたことで、あれっと思わせる。飼い犬の未登録を警察に追及され、抵抗するエピソードは強く印象に残った。ティエンは法は厳守するべきという立場であり、それならば登録していない飼い犬を没収されてもしょうがない。以前の彼なら、おそらく警察に従っただろう。しかし彼は、犬を気持ちのよりどころにしている妻の為に、見逃してほしいと何度も食い下がるのだ。この事件で、彼と妻との関係が大きく変化している。
 それにしても、自動車2台盗んで死刑というのはあまりに厳しい。よっぽど昔に制定された法律なのか(劇中でも物価との兼ね合いなど言及されており、かなり以前の法であることには違いないらしい)、日本よりも格段に厳罰傾向なのか。一方で、、警察署長がティエンに「父を殺した(多分過失致死と思われる)男を死刑にしろ、それが人情と言うものだ」と迫っていたりと法が厳しいのかゆるいのかよくわからない。また、死刑執行の際、そのへんの川原に連れて行って執行しているのでびっくりした。一応警官が警護しているが、遠くからだと丸見えだよ!実際野次馬が集まっている描写があったし、文化の違いを実感した。