元バンドマンだが鬱病のせいで活動を断念、療養を経て、今は僧侶として小さな町で暮らす浄念(スネオヘアー)。高校で講演を頼まれるが、緊張のあまり大失敗し、檀家からもひんしゅくをかってしまう。落ち込んでいた浄念だが、ある日この町でライブをやりたいと言い出し、妻の多恵(ともさかりえ)や住職・玄宗(小林薫)は困惑する。監督は加藤直輝。
 スネオヘアーのちょと癖のある顔つきが、浄念の思いついたら即行動、真っすぐだが挙動不審な人柄に活かされていたと思う。一生懸命は一生懸命なのだが、過剰に集中してしまう感じがよく出ていた。本職ミュージシャンだから当然ギターもボーカルも板についており、ライブシーンも危なげない。ただ、バンド時代の音楽性と僧侶になってからの演奏とが大分方向性違うんじゃないかなという気がしたが。
 また、妻役のともさかりえがいい。『ちょんまげぷりん』の時も思ったのだが、若い子供のいる母親の役が上手い。子供と絡む演技がごく自然で、お母さんとして出来過ぎでもないし出来なさすぎでもない、丁度いい塩梅。ふがいない夫を支える役柄だが、健気という印象にはならないところに好感を持った。妻役といえば、玄宗の妻役の本上まなみもよかった。楽天的で懐の広い女性を好演していたと思う。小林薫の妻役としては若くてきれいすぎないか?とは思ったが。
 浄念は、多分身近にいたらはた迷惑な人なんだろうと思う。情緒不安定だし、思いついたら即行動で先が読めない。ただ、彼はそういうふうにしか振る舞えない。彼自身、自分の弱さに振り回されそうになりつつ、悪戦苦闘しているのだ。そんな彼が自分の居場所・あり方を確かめるまでの物語だ。ただ、個人的には浄念本人の苦しみよりも、彼の理解者だった和菓子屋の主人・庸平(ほっしゃん)のエピソードの方が立体的に立ち上がっていたように思う。カラオケの席で浄念にかけた言葉に、彼の優しさが表れていてぐっときた。その優しさ故、彼がその後選んだ道には胸を突かれる。また、お祓いの後で庸平の息子と浄念がかわす会話も、印象深い。