第11回東京フィルメックスにて鑑賞。本作は来春、シネマライズにて公開されるそうだ。興味のある方はぜひ。農場を営むブンミは、腎臓病で余命いくばくもない。彼の死んだ妻の妹・ジュンは、ブンミに呼び出され、農園の管理を託される。ある夜、2人の前に19年前に死んだブンミの妻や、行方不明になっていた息子が現れる。カンヌ映画祭パルムドール受賞作。監督はアピチャッポン・ウィーラセタクン。
 生きた人間、死んだ人間、動物、精霊などが、お互いの世界と自分の世界をあっさりと行き来する。それぞれの世界の境目がはっきりとあるのではなく、いつのまにか、すっと移行していく。
 また、ある者から別の者にいつのまにか変容してしまうし、それがごく自然のこととして描かれている。ブンミの息子は人間の世界と相性が悪く、ある者になって戻ってくるが、彼の姿を見たジュンの言葉には吹き出してしまった。息子や妻の現れ方が素晴らしいのだが、ソレに対するブンミたちの反応もすばらしい。その程度でいいのか!でも死んだ妻が出現しても2人ともそんなに驚かないし、変身するくらいたいしたことではないのか。
 さらに、生死や人間・非人間といった境目だけでなく、時間も跳躍してしまう。過去と未来という時間軸をいつのまにか行き来し、過去のことも現在・未来のことも並列している。縦軸にも横軸にも自在に移動するというか、全部一緒くたになっているのだ。どんなに変容しても世界は存在し続けるという、タフさを感じた。
 舞台は森に囲まれた農村だったり森の中だったりするが、森の様々な気配に満ちた濃厚な空気感が、すごくよかった。森の映画といってもいい。多分音の録音や響かせ方が上手いのだろうと思うし、ロケ地そのもののよさもあるだろう。滝のシーンなども美しかった。