第23回東京国際映画祭にて。アフガニスタンで米軍兵士を殺し、捕らえられたモハメド(ヴィンセント・ギャロ)。ヨーロッパ北部らしき拘置所に送還されるが、護送車が事故を起こしたのに乗じて逃げ出す。そこは雪の深い山の中だった。追っ手を振り切り、モハメドは逃げ続ける。監督はイエジー・スコリモフスキ。
 ヴィンセント・ギャロのほぼ一人芝居、しかも舞台が極寒の山の中という色々な意味で初期設定がギリギリな作品なのだが、そこをねじ伏せていくあたりは流石スコリモフスキ監督といったところか。この監督は絵に妙な力強さがあって、ストーリーに起伏がなくても目が離せない。特に登場人物の移動の撮り方が面白い。今回は長回しは殆どないのだが、ロケ地が山林で撮りにくいからだろうか。
 砂漠地帯でモハメドが米兵を殺し、逃げ、捕らえられ、拷問を受けといった流れは、案外普通の映画っぽい。『アンナと過ごした4日間』では、映画が始まるなり何か異形のものを突きつけられたような感があったが、そういった特異な感じは、最初はしなかった。ハリウッド映画だと言われればそうですか、と頷いてしまいそうなくらいだ。しかし、モハメドが逃げ出して森に入ると、徐々におかしな雰囲気が漂ってくる。
 モハメドは逃げる為に民間人も兵士も犬も殺す。それにつれ、徐々に生きている人間の世界から逸脱していくように見える。生きるために殺しもいとわなかったのに、生き残るというよりも死者の世界、ないしは人間以外のものの世界に入っていくように見えた。彼がその世界のどこまで行ってしまうのか、そこに引きつけられた。彼にとっては世界の果てまで行ってしまう方がいいのか、それとも留まる方がいいのか。人間の世界に引き止めた(というように私は見た)のはスコリモフスキ監督の優しさなのか厳しさなのか。
 山の中だから、というわけでもないだろうが、やたらと動物が出てくる映画だった。動物と心通う、というようなことは全くなく、単に動物であるのだが。なお、魚を奪うシーンが自分の笑いのツボにはまってしまい困った。だって遠くからたったったったって走ってくるんだよ・・・。ここだけでなく、妙なところで笑いを誘われた。ヴィンセント・ギャロへの無茶振りさがすごいので、撮影現場を想像するとそれだけで愉快な気持ちになります。ギャロ、気難しそうなイメージがあるんだけど、よくやったなー。極限状態なのに顔の色艶がいいのが難だが、そこにリアリティを求めるタイプの映画でもないか。