第23回東京国際映画祭にて。離婚を考え始めた中年の夫婦。ある日、18歳の一人息子が在学する大学で、銃の乱射事件が起きる。息子の身を案じる夫婦だが、電話は通じず不安は募るばかり。ようやく自宅に訪れた刑事が告げたのは、夫婦の想像を絶する内容だった。監督はショーン・クー。
 題材にしろ、撮影手法にしろ、特に目新しさがあるわけではないが、丁寧に、そして節度をもって作っているという印象を受けた。実際に起きた事件を題材にしていることは明らかだが、ショッキングな事件だけに見せ方によっては下世話になったり、過剰に「泣ける」展開になったりしそうだ。しかし本作は一貫して一歩引いた目線で描いている。撮影自体はドキュメンタリータッチの臨場感あるものなのだが、登場人物に(心情的に)近寄りすぎない。カメラの動きが劇的である、あるいはカメラが映し出す状況が劇的であっても、それを見ている視線が感情的でないように思った。あんまり感情移入をうながすタイプの映画ではないのね。この冷静さが好ましかった。音楽も使い方が控えめで良い。一ヶ所だけ、ちょっとやりすぎだなぁと思ったところがあったのだが、私は音楽かなり控えめの映画を好む傾向があるので、気にしすぎたかもしれない。
 主人公夫婦は当初倦怠期にあり、夫は自分が別居する為の部屋を探している。しかし、事件が起きたことにより夫婦の絆が逆に再生するというところが皮肉だ。しかしその絆もまた、もろく崩れてしまう。夫と妻は事件を消化しようとする方向も、悲しみの表し方(あるいは隠し方)も異なる。息子との思い出にひたる妻に対し、マスコミ対策やら家の処分やらの現実的な諸々をやることによって苦しみを麻痺させようとする。妻から見ると夫は冷たく、夫から見ると妻は逃げているように見える。夫婦2人が別の人間であり、簡単にお互いを共感、理解などできないことが顕になる。結局、お互いのことが本当にはわからない。
 そのわからなさは、息子についても同様だ。彼が何を思って行動したのか、夫婦には最後までわからないし、多分この先もわからない。警察やマスコミはあれやこれやと言うのだろうが、当事者にとってみれば全て的外れだろう。両親にとっては「大人しいがいい息子」であったし、それは確かに彼の一面ではあった。
 そもそも、主人公夫婦は関係は冷めているとはいえ、まあごく普通の夫婦だし、両親としても特に大きな問題があったわけではないように見える(妻が劇中で「(私達より)もっとひどい両親は大勢いる」と口にする)。事件が起きるような要因は、特にないように見える。本当のところはわからないのだ。夫婦はずっと「なぜ息子が」「なぜ私達が」と問い続けることになるのだろう。最後、わずかな希望が見えるのものの、わからなさがずっと夫婦をさいなむことになるのかと目の前暗くなるような気がする。