友人同士のちょっとした旅行で、家族ぐるみでカスピ海沿岸の別荘地を訪れた一同。その中には初参加のエリという女性もいた。しかし予約していたはずの貸し別荘は満室で、海辺の古い空き家に寝泊りするハメに。それでもキャンプ気分で楽しんでいたが、休暇2日目、海で子供が溺れ、何とか助かったものの、エリの姿が見えない。一同は必死で探すが、彼女は荷物を残したまま姿を消してしまった。監督はアスガー・ファルハディ。
 グループは3組の夫婦とその子供、兄弟によるもの。その中でエリだけがほぼ初対面なんだなということが、徐々にわかってくる。そして、グループの中心であるセピデー(ゴルシフテェ・ファラハニー)が自分の義弟とエリとのお見合いの為に旅行をセッティングしたらしいということもわかってくる。しかし、それにしてはエリは何かを気にしているようだしセピデーは別荘の予約の件にしろ、やたらと強引に物事を進めようとするしで、なんとなく不穏な空気も漂う。ドキュメンタリータッチであまり具体的な説明はないのだが、物語の中の情報を小出しにしていく手順が上手い。小出しにしていくことでストーリーにフックが生まれ、地味な作品ながら見ていて最後まで引っ張られた。
 また、感情、特に不安感の盛り上げ方に妙に気合が入っていたように思う。特に、子供がいないことに気づいた時の大人たちの反応の描き方は、胃に穴が空きそうなストレス感。ストーリー的にはこの後エリの失踪が明らかになってより混乱していくのだが、小集団がうわーっと焦り始めるというか、パニックに陥りそうな状況が後半ずっと続くので、見ていてなかなかにストレスフルだった。ストレス感じると言うことは、描かれている様が真に迫っているということなのだろうが。
 実はエリには隠していたことがあり、それが明らかになったせいで慌てているのだが、少なくとも日本人から見ると、何でそんなに焦るの?というようなもの。イランの文化・習慣についてある程度知っていないとぴんとこないかもしれない。同時に、女性が大学に行って就職して、男女混合で旅行にも行けるようになったのに、この一線を越えたらだめ、というラインがありありと見えてしまって、ちょっと呻った。
 もっとも、エリの事情を差し引いたとしても、彼らの対応はまずいだろう。ウソをつくなら最初に示し合わせて一貫したウソをつけ!と突っ込みたくなった。全員場当たり的すぎる。なおウソに関しては「コーランに誓って本当だ!」と言いつつライトにウソついていたりするので、一般的なイラン人の信仰に対する感覚はこういう程度なのかしら、と気になった。
 事態が混乱していくのは、セピデーのせいでもある。ただ、彼女に悪気はない。全員セピデーを責めるのだが、彼女の夫がもらすように、彼女は何でも任されすぎなのだ。グループの中心であっても、リーダー的存在を背負いきれるほど実は能力はない、にもかかわらず過剰に期待に応えようとしてしまう。こういう人、往々にしているものだけれど、やはり見ているとイラっとするなぁ(笑)。