アストリット・パプロッタ著、小津薫訳
ピエロのような化粧が施されたホームレスの死体が立て続けに発見された。捜査にあたったイナ・ヘンケル警部は、犯罪報道番組の看板女性キャスター・デニーゼとの関連を疑う。ドイツ・ミステリー大賞を受賞した作品で、パトリシア・ハイスミスの再来とも言われている作家だそうだ。ハイスミスほどの底の見えなさは乏しいものの、確かに全体に漂ういや~な(笑)雰囲気は似ているかもしれない。ハリウッド映画風にどんどんストーリーが展開するアメリカのミステリとは異なり、作家個人の資質なのかドイツミステリの特徴なのか(多分前者だろう)、事態はなかなか動かず登場人物の心理の流れに比重が置かれている。イナはバリバリ仕事はこなすが捜査中に容疑者を射殺してしまった過去がトラウマになっており、精神的には不安定。その不安定さにストーリーがひっぱられてふらふら停滞しているようにも見える。彼女がなんとか自分を立て直そうとしている姿はもどかしい。もっとも、捜査の進まなさは却ってリアルで、実際はこんな感じでイライラするんだろうなーという感じもするのだが(笑)。複雑そうに見えた事件が非常にシンプルな動機により終息するのが印象に残る。