ナム・リー著、小川高義訳
生後間もなく、ボートピープルとしてベトナムからオーストラリアへ渡ってきた作家による短編集。しかし最初に収録されている「愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲」は、出自を小説の題材にしまいとする作家の卵であるベトナム系青年と、過去について多くは語らない父親との葛藤の物語。ラストにはひっぱたかれるような軽いショックが。言葉では表せないものがある、小説ごときでは表せない体験があるということか。その「書けなさ」を小説の中に書くことの苦みが余韻を残す。他の作品は作者本人の出自とは関係なく、「ヒロシマ」のように取材と想像力の力を十分に発揮した、作者のどや顔がなんとなく浮かんでくる(笑)ものもある。しかしどれも、どこか喪失感や決定的な何かが変わってしまった瞬間を感じさせる。そして、最後に収録された表題作は、作者の出自をそのまま題材に使ったような、難民ボートに乗り込んだ少女の物語。踏ん切りがついたのか。