12歳のオスカー(カーレ・ヘーデプラント)は、学校でいじめにあっており友達もいなかったが、母親にはそれを言えずにいた。ある夜オスカーは、団地の中庭で風変わりな少女エリに出会う。エリ(リーナ・レアンデション)はオスカーの家の隣に越してきたのだ。オスカーとエリは毎晩外で会い、部屋の壁越しにモールス信号を送りあうようになる。一方、町では凄惨な連続殺人事件が起きていた。原作はヨン・アイヴィデ・リン ドクヴィスト『モールス』、監督はトーマス・アルフレッドソン。リンドクヴィストは脚本にも参加している。
 耽美さがかすかに漂うゴシックホラげー。もっとも、ホラーというほどには怖くないが。原作を少々はしょっており、消化しきっているとはいえないものの、かなり忠実。ストーリーラインそのものというよりも、作品全体に漂う静謐な空気感が近い。原作のファンにも(というかファンには)お勧めできる。音の使い方、というよりも音のない部分の使い方が上手くて感心した。ハリウッド映画や日本の大作映画だと、ここまで思い切って音楽なしにはできない。音楽を使うところでは盛り上げ、使わないところではすっぱり使わないという姿勢が潔かった。この潔さは説明の少なさにも表れている。原作を読んでいない人は、バーで集まっている大人たちのエピソードなどには取ってつけたような違和感を感じるかもしれない。エリと同居している男性との関係や、オスカーの同級生らの背景も、具体的には説明されず、見る側が提示された情報から解釈していくという向きが強い。それを負担に思う観客もいるだろうが、個人的にはこのくらい控えめな説明で丁度いいと思う。ハリウッドでのリメイクが決まっているらしいが、ハリウッド的親切設計にすると、本作の良さがなくなってしまう気がする。
 ただ、情報を解釈という点から言うと、一か所ボカシが入ったのは痛恨。これを映像的にちゃんと見せないと、エリが背景に持つ意味合いがあいまいになってしまう、ないしはミスリードされてしまう。日本では仕方ないんだろうけど惜しい。
 オスカーとエリの行き場のなさ、世界から疎外されている感じが彼らを近づけていく。特に、最初から異形の者として登場するエリはともかく、普通の少年であるオスカーの孤独は、同じような気持ちでいる子供が大勢いるだろうなと思わせる。別居している父親との、一見親密だが何かの拍子で父親が遠のいてしまう感じが子供目線でリアル。同級生のいじめにあらがえない無力感もイタい。子供の世界の狭さが息苦しいのだ。
 無音のタイトルロール、ほのかに血の色となるエンドロールをはじめ、色彩加減がとても美しい。病室やプールのシーンなどおそろしくも静謐で印象が強く残る。この部分は原作のイメージに特に近かった。