枡野浩一著
名前や職業はかえてあるけれど離婚の経緯をかなり赤裸々に綴った、著者の自伝的小説。小説であると同時に、各章で1冊の本が登場する書評でもある。小説の内容とリンクしているようでしていないところが、却って記憶にひっかかる。読書は、実生活とは往々にして無関係に進められるからか。夫である速水の一人称である為、当然妻に去られた辛さや怒り、子供に会えない悲しみが綴られ、速水の妻の行動は理不尽なものに見える。が、読んでいるうちに、妻が去った理由もなんとなくわかってくるのだ。妻には妻の言い分があるはずなのだが、速水はそれをあまり考慮していないんじゃないか、むしろ速水の方が妻を追い詰めていったんじゃないかという部分がぽろぽろ出てくる。そもそも、別居を強いられるほど関係がこじれるまで妻の変化に気づかないというのもなぁ・・・。別居後も、それやらない方がいいんじゃないかなぁと思うことをぽんぽんやっていたりして、自分で事態を悪化させている向きもある。速水はある種潔癖というか、正しさに拘る傾向があるのだが、清濁飲み込めない人が結婚生活(というか他人との生活)維持するのはなかなか難しいと思う。徐々に速水の結婚生活の姿が立ち上がってくる構造はスリリングなのだが、著者がこれを計算して書いているのか天然で書いているのかよくわからない。計算だったらすごいけど、天然だったら、まあ離婚もやむなしでしょうね・・・・。文庫版で読んだのだが、巻末に町山智浩による真摯な説教、もとい解説がついているのでこちらも必読。