屋内野球場アストロドームの地下にこっそり住んでいる少年ブルースター(バッド・コート)は、自力で空を飛ぶために人工の翼の製作と筋力トレーニングに励んでいた。彼を見守るのはコート姿の不思議な女性ルイーズ(サリー・ケラーマン)。一方、町では被害者が鳥のフンまみれという奇妙な連続殺人事件が発生し、敏腕刑事がサンフランシスコから呼び寄せられた。ロバート・アルトマン監督、1970年の作品。コアなファンがついている作品だそうだが、今回ニュープリント版で上映された。
 アルトマン本人は自作の中でベストと評していたらしいが、なぜ彼にとってベストなのか、またなぜ根強いファンがついているのか、いまひとつピンとこなかった。私の事前知識が殆どなく、少年が空を飛ぶために試行錯誤する話だと思っていたから拍子抜けしてしまったというのもある。実際にはそういう部分はあまり出てこず、連続殺人を追う刑事の方が出番が多いくらい。脇で出てくる人たちが全員アクが強くて、やたらとテンション高く駆け抜けていく。そのテンションの高さ、躁状態に当てられてしまった。
 イノセンスの喪失を描いている部分に惹かれる人が多いんだろうなとは思う。ブルースターの守護天使のような存在であるルイーズ(メーテルみたいだなーと思ってしまった(笑))は、彼にちょっかいをかけてくる少女スザンヌを遠ざけようとするが、ブルースターはスザンヌに恋し、ルイーズは去る。守護天使に見放されたブルースターは当然堕ちていく。ただ、ルイーズはスザンヌを「彼女は死神よ」と言うのだが、ルイーズのせいでブルースターは殺人事件の容疑者にされたようなものだし、そもそも飛ぶことを目指した時点で彼の顛末は予測される。本当に死神だったのはルイーズの方とも思える。むしろ、スザンヌと「この世」に留まった方が世俗的な幸せは得られたんじゃないかなー。
 私が本作をあまり面白いと思わなかったのは、イノセンスの喪失=死という面が強調されていたからかなと。ブルースターにしても刑事にしても、わが道を行き過ぎて墜落してしまう。そんなに一途じゃなくてもいいのになぁ。