1818年、ロンドン郊外の町ハムステッドに住むファニー(アニー・コーニッシュ)は、隣に下宿しているブラウンとは犬猿の仲。しかしブラウンの友人である詩人のキーツ(ベン・ウィショー)に惹かれる。キーツもまたファニーに思いを寄せるが、貧乏で地位もないキーツにファニーと結婚できる望みはなかった。監督・脚本はジェーン・カンピオン。6年ぶりの新作になる。
 キーツは明らかに貧乏なのだが、ファニーの家もそれほど裕福というわけではない様子が見て取れる。パーティーとファッションに入れ込んではいるものの、生活はむしろ質素で家もそんなに大きくはない(ファニーは妹と同じ部屋)。父親の姿は見えず、下宿人からの賃料も生活費にあてているようだ。ごくごく中流の家庭なのだろう。当時の中流階級の家庭の暮らしぶりが垣間見えて面白い。また、ファニーが外出する時には必ず弟(時には妹も)が付き添っていたり、母親がファニーとキーツの仲を認めてはいるものの、いい縁談がなくなると心配したりという、当時の男女交際ルールが窺える点も興味深かった。
 ストーリーにはさほど起伏がないのだが、情景のひとつひとつがとても魅力的。監督の過去作品では『ピアノ・レッスン』が顕著なのだが、林とか草原とか、草木のある屋外での絵の作り方がとてもいい。本作だと、ポスターにも使われているラベンダー(多分)畑の中のファニーとか、キーツとファニーが散歩しているところとか、一家がピクニックしているところとか、田舎にしろ街中の公園にしろ、野外の空気感が感じられる。そこはかとなくユーモアもあり、幼い妹の目を盗んで手を繋ぐうち、「だるまさんが転んだ」状態になるところはすごくかわいいし美しい。見ていて目にやさしい映画だった。
 キーツとファニーは将来の具体的な見込みがない、2人の思いだけで成立しているような関係だが、それゆえ密度が高い。2人でただ歩くシーンがどれもチャーミングだった。ファニーの手製のドレスがどれも、この人本当に服が好きなんだなーと思わせるもので目を引かれた(部屋着がまたかわいい)。ブラウンに「ドレスと舞踏会にしか興味ないアホ女」扱いされても「お裁縫はお金になるわよ」と切り返す気の強さなど、好感が持てる(男性ウケは悪いタイプの女性かな~という気はしますが)。彼女は特別に頭が良いとか教養豊かというわけではないが、好きなものは好き、それで何が悪いと開き直れる強さがあって、キーツはそこに惹かれたのかもなと思う。