メキシコ南部の町に暮らすギャングの青年カスペル(エドガー・フロレス)は恋人マルタに夢中だが、仕事をサボって彼女に会っていることをボスに勘付かれる。一方、ホンジュラスに住む少女サイラ(パウリーナ・ガイタン)は、強制送還されてきた父の手引きで、叔父と共に父の家族が住むアメリカを目指し、貨物列車の屋根に乗り込む。しかし同じ列車に、強盗目的でガスペルとギャングのボスが乗ってきた。監督はキャリー・ジョージ・フクナガ。
 メキシコという土地柄のせいなのかカメラマンのセンスなのか、色彩が鮮やかで美しい。きれいなものも汚いものも鮮烈だ。生命力に満ちている。特に列車が駅に入ってくるシーン、不法乗車待ちの人の群れがいっせいにうごめき出すところにぞわりとした。危険を承知でここから抜け出そうとしているという人々のエネルギー量にあてられそうになる。
 人生お先真っ暗になってしまった青年と、無鉄砲とも言える一途さを持った少女のロードムービー。青年にとっては贖罪の旅、少女にとっては明日を掴む為の旅だ。カスペルは自分の身が危険になるとわかっていても、サイラを助けてしまう。それまでの彼ならおそらくやらなかったことだ。彼の行動は衝動的で、何かの臨界点を越えてしまったように見えた。
 人生を変えたいと願い、変化していくのは主にカスペルで、サイラの行動は概ね首尾一貫している。彼女は「(カスペルを)信じる」と言ったら最後まで信じるのだ。彼女が変わったとすれば、父親に勧められたからではなく、自分の意思でアメリカへ渡ろうとするようになったところだろう。もっとも、カスペルの人生は終わりが見えているし、サイラはアメリカへ無事着いたとしてもその後の生活の保証はない。2人とも不確かなものを信じて進むしかないのだが、それでも進むという姿勢が、物語をひっぱっていた。
 カスペルのほかにもう一人、大きく変化していく人物がいる。カスペルの弟分の、まだ幼い少年だ。組織を裏切ったカスペルを追い、ギャングとして後戻りできない道を進んでいく。彼の子供時代が急速に終わっていく様を見ているようで苦しかった。