映画プロデューサーのグレゴワール(ルイ=ドー・ド・ラングザン)は仕事の資金繰りの為に日々奔走していた。妻のシルヴィア(キアラ・カゼッリ)や3人の娘達・クレマンス、ヴァランティーヌ・ビリーと別荘で休暇を過ごしていても携帯電話が手放せない。やがて会社が多額の負債を抱え、撮影中の映画の完成すら危ぶまれるようになった。グレゴワールは突然、自ら命を絶ってしまう。監督はミア・ハンセン=ラブ。
 予告編でグレゴワールが自殺することは既にわかっている。しかし、予想していたよりもグレゴワールが健在だった時間の配分が多い。そしてグレゴワールは忙しそうではあるが妻子を愛しているのが分かるし、それなりに幸せそうに見える。特に幼い娘達とのやりとりは愛情が感じられてとてもほほえましい。いかにもティーンエイジャーな長女は若干不機嫌な様子を見せるものの、両親との関係が悪いわけではなく、むしろ仲は良い様子が窺える。だからこそ、彼が何の前触れもなく死んでしまうことがショックだ。もし仕事一筋で家族はないがしろ、ないしはその逆だったら、自殺するほどには追い込まれなかったかもしれない。全てに一生懸命な人がスポっと穴に落ちてしまったような死に方がもどかしかった。
 家族の自殺という悲劇もそこからの回復も、これ見よがしには描かれない。あくまで日常の中のこととして描かれる。最初から最後まで、諸々のことが起こるにしろ、一つの家族の「日常」を描いているのだ。この日常度合いの高さは、グレゴワールの会社が抱えている負債をどうにかしなくてはならないという、至って世俗的な問題が目の前にぶら下がっていることで、より強まっている。悲しくてもお腹は空くし仕事は処理していかないとならない。しかしこの、至って現実的な問題と向き合っていくことが、シルヴィアにとっては一種のリハビリになっていたように思う。そして娘達は、また別のやり方で悲しみから立ち直っていく。それぞれがそれぞれのやり方で、というところが好ましい。たとえ家族であっても悲しみの全ては共有できないのだと思った。父が関わった映画を見、父に脚本の持ち込みをしていた青年と近しくなる長女の、一人で歩いていく感じが心に残る。
 とはいえ、父親の死という部分よりも、映画プロデューサーという仕事の過酷さの方がインパクト強かった。この人絶対胃炎になっているよなぁと思うくらい。グレゴワールはわりと業界内の評判はいいプロデューサーみたいなんだけど、ヒット作が1本あるくらいじゃ全然黒字にならないのね・・・。映画製作におけるお金の話が結構生生しく、現場を垣間見る感があった。身につまされる同業界の方は多いのでは。
 特に風光明媚な場所でロケをしているわけではないのだが、映像が美しく、はっとするようなショットがいくつもあった。停電のシーンはやりすぎかなと思ったけど、外に出るという展開は非日常感があってすごくいい。確かに子供は大はしゃぎしそう。