かつては人気バンドで活躍していたカントリー・シンガーのバッド・ブレイク(ジェフ・ブリッジス)は、ドサ回りの日々を送っていた。かつて同じバンドにいた若手ミュージシャンのトミー(コリン・ファレル)は今やスターで、バッドは複雑な思いを抱いていた。ある日バッドはジーン(マギー・ギレンホール)というシングルマザーと出会う。彼女や彼女の息子と触れ合う内に、創作意欲が沸き仕事の依頼も来るなど、徐々に事態は好転していくかのように見えたが。
 監督・脚本・製作はスコット・クーパー。今までは俳優としての活躍がメインだった人のようだ(写真を見る限りでは若くてイケメン。こんな若い人がこんな地味な映画を・・・)。音楽はTボーン・バーネット。主題歌含め音楽面は充実している。出来れば全ての楽曲の歌詞に字幕をつけて欲しかった。
 ジェフ・ブリッジスは本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞しているが、加えて脇役の人たちが光っていた。バッドの昔なじみの友人役のロバート・デュバルは、本作のプロデュースもしているが、出番は少ないものの存在感がある。バッドに対する手の差しのべ方が、率直だけれど押し付けがましくなく、渋い友情を感じさせた。セリフから察するに、彼も多分元アルコール中毒なのだと思うが、だからこそバッドがはまっている状況がよくわかるし、そこから抜け出す為に彼を支えたくなるのだろうと。また、スター歌手であるトミーを演じるコリン・ファレルも、やはり存在感がある。私はあまりファレルは好きではなかったのだが、主演ではなく助演の方が光る、引いた演技の方が得意な役者なのかもしれない。トミーという人物の造形がまたいい。普通、こういうシチュエーションだと先輩を出し抜いた嫌な奴、と扱われがちだが、トミーはバッドへの敬意を持ち続けており、落ちぶれた彼を何とか再起させようとする。わだかまりを持っているのはむしろバッドの方で、彼が変われば事態も変わってくる。
 かつて栄光を手にしたものの今はおちぶれた男が、女性との出会いで人生をやり直そうとする、というストーリーは『レスラー』(ダーレン・アロノフスキー監督作品)を彷彿とさせる。しかしベースに流れる空気はより前向きなものだ。バッドは人生を変えようとするが、彼の思った方向に変わるわけではないし、どうやっても取り返しのつかないことはある。しかし、それでも人生やり直しが出来ないというわけではない。これはバッドにしてもジーンにしても同じだ。自分が最初望んだ道じゃなくても、道自体はあるのだ。バッドにはそもそも才能があったから再起できたと言ってしまえばそれまでなのだが、才能が枯渇したとしても、バッドはおそらく(ミュージシャンとしてではなくても)再起したのではないかと思えるのだ。『レスラー』は夢に殉じる男の物語だったが、本作はそうではない。
 びっくりするくらい直球でありがちなストーリー、そして嫌な人が一人も出てこないという、逆に珍しい作品。しかし若い監督が(おそらく今作がデビューに等しい)こういうオーソドックスなストーリー、オーソドックスな演出を選んで球を投げてくると、何かほっとする。