イラク戦争開始から4週間が経過した。大量破壊兵器が隠されているという情報に基づき、米軍兵士のロイ・ミラー(マット・ディモン)は部下を率いてバグダッド中を奔走していた。しかし武器探索は常に空振りに終わる。提供された情報に不信感を持ったミラーは、CIAの調査官ブラウンに近づき、協力して事の真相を探ろうとする。監督は『ボーン・アイデンティティー』シリーズのポール・グリーングラス。
 本編の前にストーリーの背景、グリーンゾーンという言葉の意味が説明された。おそらく日本独自の仕様だろう。これを親切と見るかおせっかいと見るかは人それぞれだろうが、私は説明してくれて助かった。説明しすぎてもうっとおしくなるので難しいところだとは思うが、微妙に時期のずれた時事ネタ(笑)の場合は有効だろう。
 で、「時期のずれた時事ネタ」と書いてしまったが、時事ネタ映画は公開時期が難しいと実感した。本作、面白いことは面白いし、監督がやりたかったこともわかる。が、やはり今更感が否めない。製作を始めた頃はタイムリーだったんだろうけど・・・。今となっては「そりゃあそうなりますよね」「お話的にはそう落とすしかないですよね」という気持ちの方が前面に出てしまう。映画自体の出来とは別問題なだけに非常に勿体無い。アメリカでの反応はどうだったのかなぁ。
 さて、グリーングラス監督とディモンの組み合わせでアクション映画というと、もう「ボーンシリーズの新作ですか?」としか思えないのだが、全くの別作品。臨場感溢れるスピーディーなアクションシーンは健在だが、臨場感溢れさせすぎ(カメラ手ブレ演出させすぎ)で、かなり見辛くなってしまった。特にクライマックスは夜のシーンで画面が暗いので、暗い、かつカメラ動きすぎで何が起きているのかよくわからず、つい眠くなってしまった。
 ミラーは自分に下された指令の妥当さに疑問を持ち、自分が正しいと思う行動を選択するのだが、その正しさが自分配置されている見取り図の中でどういう意味合いを持っているのか、自分の行動がその見取り図にどのように影響を及ぼすのかについては、それほど読みきれていない。また、彼の努力が実を結ぶかというとそうでもない。軍や国家などの大きな組織と相対した時、個人となったミラーに出来ることはわずかだ。ミラーは右往左往するものの、彼が含まれた見取り図の中では、その右往左往は大きな変化を与えるものではないのだ。この、対組織に対する個人の無力さはボーンシリーズとも共通している(ボーンは無敵に近いくらい強いが、その目的は自分が逃げ切ることだ)。個人の力を過大評価せず、ヒロイズムを得られる方向に話を持っていかないのがグリーングラス監督の持ち味かなと思った。
 そもそも本作の場合は、ミラーは事態の当事者ですらない。彼はイラクにおいては他所から来ていつかはいなくなる人だ。通訳の男性がミラーに一言浴びせるように、真の当事者はイラクに留まらざるを得ないイラクの国民だ。ミラーやブラウンの行動がどこかむなしいのはそのせいか。でも当事者だけであれこれやっても事が治まりそうに無い・・・というところが悩ましいのだろうが。