ジョゼフ・コンラッド著、藤永茂訳
イギリスの小説家コンラッドが、1902年に発表した作品。著者が実際に船員をしていたころの体験を元に書かれたと言われている。西洋植民地主義への批判という文脈で読まれてきたようだが(それ以前は額面どおり、未開のジャングル紀行ものとして読まれていたようだ)、実際に読んでみると、紀行小説というよりも怪異小説、近代西洋とか未開とかいうくくりをすっとばした人間の妄想を描いているように思う。船乗りのマーロウが「私」を含む仲間に自分の体験を語るという形式なのだが、全てマーロウの頭の中で作り出されたものとも見える。密林は単に密林なのだが、人間の恐怖や狂気が、そこに何か得体の知れない恐ろしいものを投影する。そのくらい彼の語りはとりとめもなく、描かれる情景は悪夢の中の出来事のようで、紀行小説、冒険小説というよりも幻想小説のよう。マーロウが探しに行った象牙商人クルツも、彼に関する噂ばかりがふくらみ、実態がないかのような人物だ。現代の私達は、さすがに20世紀初頭のような「未開」に対する見方はしていないから、よけいにそう思うのかもしれないが。当時の読者は額面どおりに取っていたというけれど本当かなぁ・・・。著者にまんまと乗せられたという部分の方が大きかったんじゃないか。