月で新しい資源ヘリウム3が発見され、地球上のエネルギー問題が解決された近未来。宇宙飛行士のサム(サム・ロックウェル)は、3年の任期でたった一人、月に駐在しヘリウム3の採掘と地球への輸送業務を行っていた。仕事を手伝い話し相手になるのはコンピュータのガーティだけ。任期が残り2週間となったある日、サムは作業中に事故に遭い気を失ってしまう。
 監督はこれが長編デビューとなるダンカン・ジョーンズ。地味な作品だが、個人的にはかなり好き。ひと昔前のSF小説のような味わいがある。しかしキャッチーな要素はかなり少ない(笑)ので、どういう経緯で日本公開にこぎつけたのか気になる。配給会社の中によっぽどSF好きな人がいたのだろうか。ジャンルとしてはおそらくハードSFなのだが、「何が起きているのか」というサスペンス部分のネタは、予告編の段階である程度割れている。が、サスペンス部分が「何が起きているか」から「これからどうするのか」という方向にあっさりとスライドするところが面白い。こういう展開だったら、あの予告編でも支障はないわけねと納得した。
 SFであると同時に、どことなく本格ミステリ的な文法を持った作品だと思う。といっても論理的に精緻である、あるいはトリッキーであるということではなく、ジャンルとしての整合性の為には多少のリアリティ(ないしは他のジャンルのフィクションで必要とされるような要素)は犠牲にしてもかまわないというような方向性が、ちょっと似ているかなと思った。
 設定にしろ作風にしろ、やや冷ややかにも見える。が、監督は意外にヒューマニスト、人間好きなのではないかなと思う。人間に対する信頼感が根っこにあるように思った。サムが何を「やらなかったか」という部分にそれが垣間見える。蛇足にも思えるラストも、サムに対して放っておけない気持ちが生まれてきちゃったんじゃないかと。コンピュータの意外な健気さも、論理上はズレた行動なだけに、よりきゅんとくる。
 ともあれ、サム・ロックウェルの一人勝ち映画であることは間違いない。この人、上手かったんだな~。あとメインテーマ曲が不安さをかきたてて、じわじわとよかった。