イアン・マキューアン著、松村潔訳
この邦題にした翻訳者勇気ある(笑)。結婚式をあげたばかりの若いカップル、エドワードとフローレンスは、チェジル・ビーチを臨むホテルの一室でディナーをとっていた。初夜を控えた2人は高揚するものの、不安もぬぐえずにいる。嫌な話を書かせると世界トップクラスに君臨するであろうマキューアン先生だが、本作はさほど嫌な話ではなく、ほろ苦い程度。あーでも男性にとってはこのシチュエーションはキツいのかな・・・(苦笑)。一晩でエドワードとフローレンスの人生が決定的に変わってしまうのだが、きっかけはそう大したことではない。少なくとも、どちらかがもう少し冷静だったり、率直だったり、何より2人が生まれたのがあと数年後だったらもっと別の展開になった可能性がある(時代背景でかなり左右される要素があるので)。この出来事のせいで2人が不幸な人生を送るようになったというわけではない。わけではないが、もしあの時こうなっていたら・・・と振り返った時の苦さ、やるせなさは、多分誰もが共感できることではないかと思う。そういえば、マキューアンは、こういった「もしあの時こうしていたら~」という取り返しのつかなさを『贖罪』でも描いていた。彼らの「その後」をあっという間に語る構成が、数時間の濃密さとの対比となっていてより苦い。