1954年のアメリカ。精神病を患う受刑者のみを収容したアッシュクリフ病院で、鍵のかかった病室から女性が消えるという事件が起きた。捜査の為に病院のある島、通称“シャッターアイランド”へ向かった連邦捜査官テディ(レオナルド・ディカプリオ)と新任の相棒チャック。失踪した女性は奇妙なメモを残していた。監督はマーティン・スコセッシ、原作はデニス・ルヘインの同名小説。
 公開前から大々的に「謎解き」「意外な結末」「錯覚」というキーワードを前面に押し出していた本作だが、本編上映前に例の「この線は全部平行です」の図が出てきてうんざりした。登場人物の視線や動作に注目との注意書きまで出てくるのだが、そこまで指示してやらないと観客は理解できないと思っているのだろうか。親切を通り越してバカにされているような気がする。そもそも、そこまで念押ししないといけないような超絶推理ものでも驚愕の真相でもないんだよ!途中で普通にわかるよ!というかスコセッシは明らかに途中でわかるように作ってるよ!
 そもそも本作が「謎解き」ものなのかというとかなり疑問だ。少なくとも監督が描こうとしたのは、いわゆる本格ミステリとしての「謎解き」ではないだろう。原作は確かに大仕掛けなトリックを使った「ラスト驚愕」系のミステリではあるのだが、活字による小説と映像作品では伏線の敷き方が違う。原作で行われているような謎の仕込みかたは、多分映画では出来ないだろう。スコセッシはさすがにそこのところをよくわかっているなという印象。本作は論理的に謎を解くというよりも、主人公を取り巻く、主人公にとっての世界を描くというところに重点を置いている。どこまで行っても「自分にとっての世界」という枠からは逃れられず、その世界から抜け出すには、彼が選んだやりかたしかないというのがやりきれない。
 もっとも、本作が映画、特にエンターテイメント大作として成功しているのかというと、正直微妙だと思う。地味な地獄めぐりみたいな感じでメリハリに欠ける。私がスコセッシ作品との相性が悪い(今までスコセッシ監督の映画を見て眠くならなかったためしがない。除く「シャイン・ア・ライト」)というのも一因なのだが・・・。ルヘイン作品は他にも映像化に向いていそうなものがあるのに、よりによってなぜこれをチョイスしたんだスコセッシ。ただしラスト、原作とは異なる哀感の持たせ方はすごく良いと思った。