ベルリンオリンピックを控えた、1936年、ナチス政権下のドイツ。政府はドイツ民族の優位性を誇示し国民の士気を高揚させる為、ドイツ人によるアイガー北壁登頂を成功させようとしていた。アイガー北壁のふもとは登頂を目指す登山家と、それを見物する観光客でにぎわう。登山家の中には山岳猟兵のトニーとアンディの姿もあった。彼らの幼馴染ルイーゼも、新聞記者として上司と共に登頂を見守っていた。監督・脚本はフィリップ・シュテルツェル。
 寒い!そして怖い!夏でも高山は寒いよ・・・という事実に対して恐ろしく説得力のある映像が続出する。予告編でも使われていた「腕が凍る(生きた人間の)」展開には背筋がぞーっとした。どういう状況なのか想像したくない・・・。登山シーンは流石にセットを使っているのだと思うが、本当に寒そう。毛布がバリバリになる、顔も手も凍傷で黒くなるなど、ビジュアル面でのインパクトは強い。
 しかし登山中は地獄のようでも、山の映像は美しい。空撮とふもとから見上げるショットと両方が楽しめる。登山列車やふもとのホテルも含め、風景には非常に魅力がある。いわゆる絵葉書のような風景が広がっているのだが、それとの対比で登山シーンの過酷さが際立つ。
 対比というと、山上の登山家たちとホテルの見物客たちを対比させる形でドラマは進む。夏とはいえ北壁は雪山なので寒く過酷。対してホテルでは毎夜華やかなディナー。登山など他人事なのでホテルの客は面白がるばかりだし、新聞編集者であるルイーゼの上司にいたっては「無事下山」では記事にならない、成功か悲劇かだと言い放つ始末だ。マスコミが地道な報道よりも派手なニュースを欲しがる(もちろん全てのマスコミがそうではないでしょうが)のは今に始まったことではないのか。本作は特にベルリンオリンピック前で、とにかく国内を盛り上げるニュースが欲しかったというのも、マスコミ、そして国が登山家を過剰に煽った一因だ。オーストリア人の夫婦と編集長のやりとりなど、当時の空気感が垣間見えるというところは面白い。
 映画前半が少々かったるく、ドラマ作りはあまり上手くない。特にルイーゼとトニーの恋愛はドラマ進行上必要ないように思った。愛に関係ないところでドラマの大半が進むので、最後にルイーゼが出てくる必要性もない。彼女をジャーナリストとして描いたなら多少納得できるけどジャーナリストらしいことしてないんだよなー。