F.W.クロフツ著、加賀山卓朗訳
 機械部品工場を経営するチャールズは、資金難に陥っていた。資産家のアンドルー伯父を頼りにしたものの、資金援助は断れてしまう。追い詰められたチャールズは、自分と従姉妹に遺産を残してくれるはずの伯父を毒殺しようと計画を練る。いわゆる叙述ミステリの傑作と呼ばれる本作。冒頭と終盤以外は全てチャールズ視点なので、彼がどのように計画を練り、実行していくのかが綴られる。地味な作品なので、本格ミステリファン以外にはフックが弱いかもしれないが、結構好きな作風だった(面白さで言うと『樽』にジャッジが上がるが・・・)。読んでる側としては、彼がどこで失敗したのか?と推理していくわけだが(笑)、犯行の証拠としてはほぼ状況証拠のみなのでは?というところが少々気になった。これで殺人の有罪判決を下すのは厳しいんじゃ・・・当時はOKだったのか?ともあれ、やや浮ついた男であるチャールズが、煩悩に負けて計画を実行する様が淡々と面白い。チャールズの心境を描いているが文体にどこか突き放したようなところがあるので、この人今、自分が都合のいいように解釈したな・・・、とか、今自分のことを無理矢理説得したな・・・とか、姑息な部分が丸見えになってくるのがおかしい。もちろん本人大真面目なんですけど・・・。動機の一つが意中の女性を引き止めたいから(しかも相手にはあんまり脈がないっぽい)というのも、本人には切実だが傍目には滑稽。チャールズの一喜一憂がいじましい。