伊藤計劃著
9.11以降テロとの戦いは激しさを増し、先進資本主義諸国は個人情報認証による強力な管理体制を敷いていた。一方、後進諸国では内戦や民族紛争が激増。その背後にはジョン・ポールなる人物が見え隠れしていた。アメリカ情報軍の特殊検索群分遣隊のシェパード大尉は、ジョン・ポール捕獲の命を受けるが。自分の守備範囲外の作品ではないかと思って読まず嫌いしていたのだが、いやー面白い!そして上手い!SFやファンタジー小説では、この世界でこういう事態が起こればこのように波及する、という設計図がきちんとできていないと行き当たりばったりに見えてしまうが、この作品はその部設計図作りがすごく上手い。上手いので、ある設定が出てきた時点で、ああ多分ラストはこうなるだろうなぁ・・・という流れが見えてくるのだが、それは作品の瑕にはならない(特に意外な展開を狙った作品ではない)。いわゆるディストピアものになるのだと思うが、夢も希望もなくて素晴らしいです。読者側の現実との地続き感が強く、救いのなさにげっそりともするが。暴力というと、倫理や理性と対峙するものとして扱われることが多いが、本作における暴力は、非倫理的、非理性的な状況下で行使されるとは限らず、むしろ(暴力を振るう者の主観では)倫理や理性の元に行使される。でもその暴力を自分で引き受けるつもりなんてないんでしょ、というところに終盤の展開を突き付けられて大変居心地悪い。