岸本佐知子著
英米文学翻訳家である著者のエッセイ。前作エッセイ『気になる部分』でも奇妙な妄想世界を披露してくれた著者だが、本作ではより磨きがかかっている。なんでこんな方向へ?!という急展開を見せる。しかも劇的な急展開ではなく、はたと気付くと自分の視覚が変容していたというような、スムーズ(笑)な移行というか、しれっとして世界がひん曲がる。特にびっくりしたのが「リスボンの路面電車」。そうくるか。ていうか路面電車関係ないじゃないすか!なんというか、勇気あるなぁ・・・。ただ、こういうネタを読ませることができるのは、著者の文章力が相当に高いからだろう。書かれたものというよりも、書き方のうまさの方に目がいった。どんなにネタがよくてもそれを活かせる文章力がないと意味がない。また一方で、結構「あーそうですよねー」と共感できる話が多い。特に子供のころの遊びの話には深く頷けるものがあった。私も著者と同じタイプの子供だったのか。