実話を元にした話だというからびっくり。1992年のアメリカ、イリノイ州。製薬会社社員のウィテカー(マット・デイモン)は、日本企業のスパイから脅迫を受けたと会社上層部に報告した。FBIが捜査に乗り出し、日本企業とやりとりがあるウィテカーの自宅にも、録音機が取り付けられることになった。しかしウィテカーは、録音機を取り付けに来た捜査官に、会社が違法な価格協定を行っていると内部告発する。 
 監督はスティーヴン・ソダーバーグ。大作が続いたソダーバーグにとってはわりと小じんまりとした作品だが、「おかしくて、やがてかなしき」な味わいには丁度良い。ソダーバーグはだらっとしたコメディが案外面白い(オーシャンズシリーズとか)のだが、本作はかなりコンパクトにまとまっているところもよかった。
 産業スパイというネタから始まり、これは企業間の抗争か!と思いきや内部告発というシリアスな展開、さらに明後日の方向へ進んでいく。話を大きくするのはウィテカーという一人の男だ。しかし彼がなぜこのような事態を引き起こしたのか、動機についてはストーリー内ではいまひとつ明らかにならない。実は彼にとってメリットがあるとは思えない。にも関わらず彼は前進を進めてしまうのだ。本人がどこまで計画していたのかわからないが、計画だけが勝手に進行していき、本人も周囲も引っ込みがつかなくなってくるという暴走系コメディとして面白く見ることが出来た。
 ウィテカーが徐々に病的になっていく姿、周囲が彼に振り回されていく姿は笑えるのだが、一方でちょっと物悲しくもある。ウィテカーはでたらめではあるが、いわゆる器の大きな人物ではない。彼の狂気が自身のキャパからはみ出ていく様が、より一層彼の器の程度を浮き彫りにしてしまう。彼はある「物語」を生きているのだと思う。しかしその物語は元々穴だらけでご都合主義のものだ。会社やらFBIやら、大きなものがどんどん介入していくことで、彼の「物語」がぼろぼろになっていくのが何かやるせないのだ。途中から、映画を見ている側にも、なんとなく彼がやっていることがわかってくるのだが、やめておけばいいのになぜその一歩を?!と何度も思った。しかし一方で、妙に楽観的だったり無神経だったり、ちぐはぐだ。彼は最終的には自分自身を騙し、彼の奥さんはそれに乗っかったという形なのだろうが・・・それはそれで幸せかもしれない(周囲は迷惑だが)。
 ウィテカーの内面については殆ど言及せず、彼の真意も明らかにしないというところがよかった。実話が元という縛りもあるのだろうが、そもそも彼の言動はかなり場当たり的であり、隠された内面などなかったようにも思えるのだ。なお、90年代が舞台なのに妙に古臭く見える(一見60年代くらいの雰囲気)。これは意図的にレトロにしているのか?