コーマック・マッカーシー著、黒原敏行訳
国境三部作の2作目。なぜか最後に読むことになってしまった。農場の息子ビリーはとらえた狼を逃がしてやろうと、メキシコとの国境を越えるが。マッカシーにとってメキシコは、アメリカよりもより自然に近く、人間の力が及ばない「あちら側」の世界の象徴なのか。ビリーは「あちら側」へ行ったのちに自分の世界に戻ってくるが、そこにはすでに自分の居場所はない。境界を越えることで、自ら悲劇を引き寄せてしまうのだ。狼を逃がそうと思ったことも、メキシコでの行動も、なぜそうしたのかビリーは説明することができない。何かに突き動かされるように、悲劇へつながる道を選択してしまうというところは、他2作の主人公と同様だ。その「何か」が自然の力に根ざしたものであるというところも。運命論的でもある。文章が淡々としていて流れるようであることが、悲劇の不可避さを一層強めていた。