'50~60年にかけてブルースの名盤を世に送り出した「チェス・レコード」の創始者・チェス(エイドリアン・ブロディ)と、マディ・ウォータズ(ジェフリー・ライト)、エタ・ジェイムス(ビヨンセ・ノウルズ)、チャック・ベリー(モス・デフ)ら彼を取り巻くミュージシャンたちを実話に基づき描く。話に聞いたところでは、レコード発売年など事実とずれているところもあるそうなのだが、細かいところに拘らなければ当時の音楽の流れが掴めて楽しめそう。私は「この曲聴いたことある」程度の知識しかないのだが、その程度の方がかえって素直に見られるかもしれない。
 予告編ではビヨンセが大きく取り上げられていたが、エタ・ジェイムズが登場するのは映画の後半になってからなので、それほど露出時間は長くないし、あまり印象に残らなかった。演じているビヨンセは頑張っていたと思うが、エタ役には美人すぎるのでは。反対に予想以上に存在感があったのが、ジェフリー・ライト演じるウォーターズ。女好きの伊達男だが、根が実直な感じが出ていて面白い。ジェフリー・ライトっていままであまり印象残らなかったのだが、いい役者だったんだと認識を改めた。なお、作品内で登場人物が歌う歌は、演じる俳優本人が歌っているそうだ。本職のビヨンセやモス・デフ(この人はどの作品でもほんといい!得がたいキャラクター)はともかく、皆上手い。この手の音楽映画を見るたび実感するのだが、ハリウッドの俳優は歌って踊れるのが基本なのね・・・。
 チェスはポーランド移民の貧乏白人の家に生まれ、金持ちになることを目標にしていた。当時としては珍しく、黒人に対する差別意識があまりない人だったらしい。加えて彼にとって白人であるか黒人であるかよりも、金がある奴かない奴(ないしは金になる奴かならない奴か)かどうかの方が重要だった。だから金を稼ぐウォーターズやジェイムズに対しては、「白人」としてではなく「ビジネスパートナー」として接する。ミュージシャンたちからは「白人の父」と呼ばれるくらい慕われていた。
 作品内でも印税絡みでちょっと生臭いところが見えるが、慕われるといっても実際はミュージシャン側にはもっと複雑な思いがあったのかもしれない。実際はもっとあこぎな人だったんだろうなぁ・・・。見た目柔和なエイドリアン・ブロディが演じるとなんとなくいい人な雰囲気になるのでずるい。(強引なやりかたでラジオオンエアさせたりするのだが、ブロディがやるとあくどい感じにならない)
 ただ、チェスが黒人歌手をヒットチャートに乗せて定着させたのは事実なので、功績が大きいのは確かだろう。ウォーターズが不満を持ちつつ最後までチェスについていったのも、彼の功績を理解し恩義を感じていたからだろう。単に腐れ縁という可能性も大ではあるが。ただ、チェスとウォーターズの間に、好き嫌い関係なく、共にのし上がってきた者同士の絆があったのだろう。
 意外と淡々としたストーリーの流れで、黒人歌手に対する差別やお金をめぐるゴタゴタ、酒やドラッグによる転落にかんしてはあっさりとした描写だ。脚本が上手いとはあまりいえないのだが、出演者の演技は安定している。出演者と当時の音楽に大分助けられていると思う。