日本を代表する自動車メーカー「アカマ自動車」を、中国系新興ファンドが買収に乗り出した。アカマ自動車のMA対策をしていた柴野(柴田恭平)は、かつての盟友であり、日本から去った天才ファンドマネージャー鷲津(大森南朋)を探し出し、アカマ自動車を救う為協力を求めた。帰国した鷲津は早速行動を開始したが、残留日本孤児3世であるという中国系ファンドのファンドマネージャー劉一華(柏原崇)相手に苦戦を強いられる。
 TVドラマの好評を受け映画化された作品。監督は大友啓史。キャスティングはドラマをそのまま引き継いでいる。前半は結構面白いが、後半はかなりあわただしい。本作の撮影が始まった後にリーマンショックが発生し、その煽りを食って脚本の改変につぐ改変をしたそうなので、そのせいかもしれない。現実が虚構を追い抜いてしまった実例といえるが、運が悪いとしかいいようがない。
 それを差し引いても、終盤での劉の扱いは疑問だ。何もこういう落とし方しなくてもいいと思うのだが・・・。せっかくいいキャラクターだったのに、エピソードを生かしきれずにもったいなかったと思う。劉が発する「何者かになれ」という言葉の皮肉さが印象に残る。彼はその言葉で日雇い派遣の青年をたきつける。しかし劉が「何者か」になる為に捨てたものを考えると、彼は本当に何者かになったのか?と思うのだ。ただ、この設定がストーリー上必要かというと、あんまり必要ではない。彼の真意の明かされ方も唐突。
 アカマ自動車をめぐる攻防は、経済に多少興味はあるがあんまり詳しくない(私みたいな)程度の人が一番楽しめるんじゃないかという気はする。よくわかっている人だとこんなのないわーと思ってしまうのかも。ただ、中心にあるのは企業買収劇だが、周辺のエピソードを入れすぎたかなという印象を受けた。それぞれの主張が矛盾していても、作り手側が言いたいことは全部つっこんでいるので、ちぐはぐな感じもする。
 おもしろいことはおもしろいのだが、正直言って映画にする必要は感じない。TVドラマとして5,6回に分けて放送したほうがいろんなエピソードを入れても上手く収まりそう。また、TVシリーズのキャラクターをなるべく出そうという配慮なのだろうが、松田龍平と栗山千明は展開に無理やり絡ませました感がある。
 ただ、人間は金を稼ぐことだけを目的にして働き続けるのは難しい(ので劉は壊れていく)という部分は、終盤での柴野のアカマ自動車に対する思いを含み、共感できる。金プラスアルファがないと働くのは辛くなるものだと思う。しかし、そこで今こそ日本のモノ作りを!的な展開にされると、またそれですか・・・とうんざりするというのも事実だ。自国を鼓舞することで、現在の日本の低迷ぶりがより身にしみてしまうのだ。アカマ自動車社長(遠藤憲一)の、代々の経営者がものづくりとやらに固執してきたから経営合理化が遅れたんだよ!というぼやきの方がむしろ実感こもっている。
 出演者では主演の大森はさすがに安定しているが、柏原が意外にいい。2人とも、金が身についていなさそうな雰囲気があるから起用されたんじゃないかという気がする。元々お金に困っていなかった人は、ファンドマネージャーは目指さなさそうだもんね。font>