出版社に勤める沈丁花ハナメ(麻生久美子)は、新創刊される女性誌の担当となるが、雑誌は全く売れずとうとう休刊してしまう。思い余って会社をやめ、人生やり直そうと身辺整理をしていたハナメは、母親が出しそこなった手紙から、自分の実父がかつて家を出て行った父親ではなく、沈丁花ノブロウなる男らしいと知る。事実を確かめようとした矢先、母親(松坂慶子)が昏睡状態となり病院に担ぎ込まれた。どうもアヤメに見せる為に河童を捕まえようとして池に落ちたらしい。手紙のあて先住所へ向かうとそこは「電球商店」なる怪しげな骨董品店、その店の店主が沈丁花ノブロウ(風間杜夫)だった。
 三木聡監督の新作となる。主演の麻生久美子はTVドラマ『時効警察』シリーズで、三木作品との相性の良さが証明されたと思う。個人的にはさほど好きな女優というわけではなかったのだが(顔の好みの問題もあるんですが、上手いのか下手なのか判断しにくい・・・。ファンの皆さんごめんなさいね)、コメディエンヌとしてはかなりいい。セリフの棒読み感というか、ある種の空々しさと三木の作風の相性がいいんじゃないかと思う。
 三木聡の作品では(特に女性が主人公の場合)往々にして、「ぱっとしない人生の楽しさ」をうたっているように思う。しかも、全くてらいなく。本作最後にハナメが叫ぶところなど、これ脚本の時点で恥ずかしくならないかなと不思議でもある。しかし、確実に鼻につきそうなところが、三木作品になるとあまり(あくまで「あまり」。すごく嫌だという人もいると思う)鼻につかない。小ネタの嵐で情緒的なものが吹っ飛ぶからだろうか。
 本作は脚本も三木聡が手がけているのだが、展開は唐突でいきあたりばったり。ストーリーを組み立てていく、ストーリーによって盛り上げることにはそれほどこだわりがないのではないだろうか。重視されているのは全体の雰囲気と、その雰囲気を形成している小ネタの数々、そして美術だ。小ネタは精度の高いのも低いのも関係なしに詰め込まれていて、もうちょっと選別した方がいいんじゃないかと思った。楽しいことは楽しいがダレる。対して美術は、これはよくやっているなーと感心した。どの作品でも、ロケーションと小道具集めにすごく力を入れているという印象がある。今回は東京都心部から京急線沿線の神奈川県エリアが舞台になっているらしく、見覚えのある風景がちらちらと。これはなんとなくうれしかった。
 あとすごくいいなと思ったのが、ハナメの部屋の間取り。古いビルの角部屋なのだがちょっと変則的な間取りで、よく見つけたなと感心した。電球商店店内も結構すごいのだが、三木監督は基本的に空間を埋め尽くしたいタイプの美術センスなんじゃないかなと思う。細かいものをちまちまそろえるの好きっぽいなぁ。