元刑事でポン引きのジュンホ(キム・ユンソク)は、客先へ向かったまま行方不明になった2人の女を探していた。電話番号を手がかりに一人の男を見つけ、デリヘル嬢のミジンに探りを入れさせるが、彼女も失踪する。ミジンを探しに出たジュンホは疑惑の男ヨンミン(ハ・ジョンウ)を捕まえるが、彼は「女たちを殺したのは自分だ。最後の女はまだ生きている」と警察で告白する。監督はナ・ホンジン。
 『殺人の追憶』を彷彿とさせるような作品ではあるが、本作の場合、ヨンミンが犯人であることは観客に対して明示されている。ジュンホと警察がどうやってヨンミンに追いつくか、ヨンミンがどう逃げ切るかというサスペンスが主軸となっている。接近しては引き離され、という繰り返しで、引きが強い。それを延々2時間続けられるというのもすごいのだが、ちょっとくどすぎるかなとも思った。あと20分くらい短くてもよかった。
 ヨンミンはモンスター的な人物であり、かなり怖い。非常に頭が切れたり力が強いから怖いというのではなく(殺人はむしろずさんと言ってもいい)、普通の人が普通なこととして殺しを続けるといった自然体な様子が怖い。殺人鬼であるという部分を除いてしまえば、むしろヘタレた青年なのだ。殺し方が、ノミと金槌で頭をかち割るというこれまた痛そうなもので、この手の映画が苦手というわけではない私でも、ビクビクしながら見た。ヨンミンに限らず、暴力の出方がナチュラルなのだが、韓国映画ではわりとこういう光景を目にするように思う。
 対するジュンホは正義漢というわけではなく、道徳的な人物というわけでもない。風邪を引いたミジンを無理やり仕事に行かせ、女たちには陰で「ゴミ」呼ばわりされるような人間だ。ヨンミンを追うのも、当初は彼が自分の使っている女たちを勝手に売ったと思い込んでいたからだ。また、正義の味方である警察の面々も事なかれ主義だったり、逆に功名心にかられたりで、どうも冴えない。初動捜査のずさんさにはつい突っ込みたくなった。そ、そこでもうちょっと念入りにやっていれば事件解決するんじゃないの(『殺人の追憶』でも初動捜査ずさんだった記憶が。さすがに実際の韓国警察はそんなことないと思いますが)!この警察の必要以上のマヌケさが作品のテンポを悪くしていて残念。
 殺人犯を追う物語ではあるが、正義対悪というわけではなく、泥沼の浅いほうにいるか深いほうにいるかという差なのではと思わせるような、それこそ泥沼状態の追いかけっこが展開される。キリスト教を示唆するモチーフが頻出するものの、神の救いはどこにも現れず、むしろ全員がどんどん地獄へ突き進んでいく。ジュンホとミジンの娘とのやりとりが唯一息抜きできるシーンだったが、ラストで更に追い討ちをかけるような展開。やっぱりくどい。