小林多喜二著
ブームに1周(どころではなく)遅れて読んでみた。ご存知の通り、蟹工船での過酷な労働にあえぐ若者たちを描いた小説であり、その姿が現代の製造現場における派遣社員の姿と重なるということで、再度ブームが来た。確かに、労働時間がやたらと長かったり、給料から家賃だなんだとどんどん天引きされていく様は現代の労働者の姿とダブる。しかし、条件としてはより悪辣な当時の方が、まだ仲間同士で連帯することに対する希望があったという印象を受けた。今は、連帯して何かに対抗できる、何かを変えられるということを信じるのがなかなか難しいと思う。過去も現代も末端の人間の無力感はあるのだが、そこから生じる熱量が全然違うんじゃないかと。それはさておき、プロレタリア文学というくくりがなくても一種の群像劇として面白いし、予想以上にぐいぐい読める。筆力高い。船内の匂い、汚さについての描写が妙に具体的でうっとなった。また、「党生活者」は主人公本人は大真面目なのだろうが、客観的に見るととんだヘタレであるところが滑稽。著者本人にそのつもりがあったのかどうかはわからないが、自己弁護に走っていく様が生々しすぎる。