日系ブラジル人のキリン(オダギリジョー)は両親を亡くし、ユダ(アンソニー・ウォン)に育てられた。ユダはコピー商品の販売で財を成した中国系ギャングだが、新興勢力が彼を失脚させようと罠をしかけてくる。監督はジャ・ジャンクー作品の撮影監督だったユー・リクウァイ。
 主演と監督が日本人と中国人で舞台はブラジル、作品内では中国語とポルトガル語が飛び交う、カオスな作品。しかしカオスすぎるだろうこれは!監督が結局何をやりたかったのか、だんだんわからなくなってくる。このシーンとこのシーンが撮りたかったんだなーというのは分かるのだが、ストーリーの流れと乖離しているように思った。
 前半は、これは日本で言うところのVシネ路線か?!ヤクザものか?!と若干わくわくもしたのだが、だんだんと妙な方向へスライドされていく。きちんとスライドされているのならいいのだが、ヤクザ抗争ものとしての設定をひきずったままずれこんでいくので、中途半端だ。ひとつひとつのエピソードの処理がとっちらかっている印象を受けた。
 組織間の抗争が描かれるので、敵対組織やら警察やら味方やらが出てくるのだが、出方も消え方も唐突で、キリンらとの関係がよくわからないし、結局彼らが何をしている人なのかというのもよくわからない。一方で、父と息子の関係性はどんどん増幅されていく。
 しかし父と息子の物語としては、この手の話の定番である、息子が父親を乗り越えるないしは切り離す、というものにはなっていない。父が自らの力添えで息子に自分を切り離させるという妙なことになっている。父親が、肉体的には弱化していくのに存在としてはどんどん神話的なものに強化されていく(しかも息子だけでなく彼が治めた町全体に対して)。この経緯がすっとばされているので、なんでそんなにエラくなっちゃったの?と唖然としてしまう。息子にとっては絶望に等しい関係とも言えるし、そんな関係の中では女性たちが徐々にフェイドアウトしていくというのも頷ける。
 キリンの夢の中(なのか?)の抗争シーンが、これはオダギリにチャンバラやらせたかっただけなんだろうなーとありありとわかるもので笑える。しかも殺陣が下手!俳優が下手というよりも演出の仕方がなってなくてがっくりきた。