(ややネタバレ)
 文学を専門とする大学教授のデヴィッド(ベン・キングスレー)は教え子のコンスエラ(ペネロペ・クルス)に惹かれ、やがて恋人同士となる。しかし彼は若いコンスエラが自分から離れていくのではと恐れていた。監督はイサベル・コイシェ。
ちょいワルおやじのモテ話かよ!渡辺ジュンイチかよ!・・・と当初見る気がぜんぜんしなかった本作だが、コイシェ監督の『あなたになら言える秘密のこと』をたまたまTVで見て、俄然興味がわいてきた。この監督は甘っちょろいロマンスは撮らないだろうと。で、実際見てみたらこれが渋い渋い。切ないロマンスなんてもんじゃない(いやある意味切ないんだけど)です。
 デヴィッドはコンスエラと深い仲になり、大学院を卒業する彼女に「実家でパーティーやるから家族に会って」と頼まれる。デヴィッドは正直乗り気ではないが、愛するコンスエラの為なのでしぶしぶ了解。そして当日、デヴィッドはコンスエラの家の近くまで行くものの、「いやー交通事故で間に合わなさそうなんだよね~」と電話して招待を断ってしまう。えー。久しぶりに映画を見ていて唖然とした。なぜバレバレな嘘をつくのかと(コンスエラは電話中に気づく)。30歳近く年下の恋人の両親というと、おそらく自分と同年代。気まずいのはわかる。でも彼女とこの先も一緒にいたいなら通らねばならぬ道だろう。そこを回避してしまう根性のなさと無責任さは、いい歳した大人とは思えない。
 コンスエラはこの後、彼への連絡を絶ち姿を消す。そして驚いたことに、後々まで彼は、彼女がなぜ怒り、彼から離れたのか理解していないのだ(友人に「パーティーを断ったら別れた、何を考えているのかわからない女だった」という意味のことを後に言う)。彼女は彼に、自分の人生に関わって欲しかったのだ。だから家族にも会って欲しかったし、それに応じるかどうか彼を試したのだ。しかし彼はそれを拒絶した。他人の人生に関わることの責任をもてない人とは、一緒に人生を歩めるわけはない。このようにデヴィッドは、年齢は重ねているが成熟しているとは言い難い。
 数年後、コンスエラは再びデヴィッドの前に現れる。彼女にはある頼みごとがあった。これは、彼女がデヴィッドを愛していたということでもあるだろうが、その頼みごとは皮肉でもある。デヴィッドに愛されていると彼女が確信できたのは、「そこ」だけだということでもあると思うからだ。彼女は(自覚の有無に関わらず)2度彼を試したことになる。彼は1回目は気付かず、2回目はようやく気付いた。しかし残された時間がどれくらいあるのか。デヴィッドの友人は彼に「彼女は君が大人にしたようなもの」と言うが、実際は彼女の方がずっと大人だった。彼女がデヴィッドをようやく大人にしたのだ。
 一歩間違うと安いメロドラマになりそうなところだが、そうはならないところがコイシェ監督のいいところ。男女どちらにも過剰に肩入れすることなく、時によっては冷徹といってもいいくらい突き放した視線がある。しかし、デヴィッドを一見スマート・ダンディな年配男性として造形しつつ(見る人によっては最後までそう思っているかも)、彼のヘタレさをじわじわ見せていくあたりには、結構な意地の悪さを感じた。