題名には「英国王」とついているが、チェコの映画。1960年代、共産主義体制下のプラハ。出獄した初老の男・ヤン(イヴァンン・バルネフ)は、国境付近のズデーテン地方に送られる。廃屋を改築して暮らし始めた彼は、人生を振り返る。彼は田舎町の食堂の給仕人からスタートし、プラハの名門ホテル、ホテル・パリの給仕人となる。しかし1938年、チェコスロヴァキアはドイツに占領され、ホテルにもドイツの将校たちが出入りするようになった。そしてヤンは、ドイツ人女性リーザに恋してしまう。監督はイジー・メンツェル。
 「数奇な人生」ものでもあるが、チェコの近代史でもある。チェコの現代史をまったく知らないと厳しいものがあるかもしれない(私もよく知らないのだが。予習していけばよかった)。しかし面白くほろ苦いコメディで、十分楽しめた。
 主人公であるヤンは、ちょっとした機転の利く人物だが、賢者というわけではなく、善意はあるが善人ではない。どちらかというとこすっからい小物だが憎めない。この親しみの持てるキャラクター付けがよかった。あくまで一市民、偉くもないしそう辛苦をなめているわけでもない、一般庶民の目線を持った人物として造形されたのではないだろうか。
 これは「一般人」としてのリアリティあるなぁと思ったのが、ヤンの長いものには巻かれろ的なところだ。彼が信じるのは金。思想的にはあまりポリシーはなく、ドイツ人が台頭してきたらドイツ人の側に立ちナチスにも協力する。愛国心がないわけではないが、給仕長のように筋の通ったものではない。その場その場で都合のいい側につく。彼と対照的なのが、昔かたぎの給仕長。しかし生き残るのはヤンだ。良くも悪くも多少いい加減な方がたくましく生きていけるのかもしれない。
 ただ、ヤンが自分の無節操さに対して無自覚なのではなく、給仕長に対しても、ナチス親衛隊である妻に対しても、複雑な心情であるのは見て取れる。更にドイツが侵攻してくるちょっと前、チェコ内で愛国主義的な運動が強まった際、チェコ内のドイツ人(結構いたそうだ)は迫害されていた。ヤンも若いドイツ人女性が暴行を受けそうになっているところに居合わせる。そしてヤンは、同胞にボコられる危険を冒しても彼女を助けてしまうのだ。権力に立ち向かうほどの気骨はないしポリシーがあるわけでもないし極力保身を図りたいが、見ず知らずの人を助ける善意を時に発揮するというところが、「凡人」としての救いになっていると思う。監督にとってはチェコの国民性に言及しての表現なのかもしれないが、普遍的にも言えることだろう。
 メンチェル監督は結構なお年(70歳だとか)なのだが、年を取ると表現に対してより自由になってくるのかなと思った。リアルとファンタジーを自在に行き来していて、ファンタジックな表現にまったく躊躇がない。あと、エロに対しても大変おおらか。女性のフルヌード率高いし乳首率高いし、わーやりたいことやってるなーとほほえましい気持ちになった。とはいっても、女性のヌードや性的な表現が多様されていても、どこか長閑でユーモラスであり、下品ではない。このへんのセンスがいいなと思った。