ドイツ映画『ノッキン・オン・ヘブンズドア』(1997)のリメイク映画。オリジナルは、余命わずかと判明した男2人がギャングに追われつつ海を見に行くロードムービーだったが、ドイツで大ヒットしたというのも頷ける快作だった(残念ながら日本で公開した時はあまりヒットしなかったようだが)。リメイク版では、主人公の男2人を、青年と少女に置き換えている。
 脳腫瘍が見つかり、突然余命3日と宣告された28歳の勝人(長瀬智也)は、入院先の病院で、幼い頃から入院生活を送り、余命わずかだという14歳の春海(福田麻由子)と出会う。春海が一度も海を見たことがないと知った勝人は、酒に酔った勢いで、一緒に海を見に行こうと車を盗んで春海を連れ出す。しかし勝人が盗んだ車は、ある組織が大金を乗せていたものだった。
 オリジナル版のファンとしては非常に不安だったのだが、監督が『鉄コン筋クリート』のマイケル・アリアスだというので、アニメーションではなく実写作品だとどういう雰囲気になるのか気になったので、そして主演が長瀬智也なので一応見た次第。面白いことに、実写ではあるが「鉄コン~」を思わせる映像がところどころに見られた。人物よりもオブジェクトへの愛着が感じられるところ、街の猥雑な部分の切り取り方、色の加工加減などはちょっと面白いなと思った。
 思っていたほどひどくはないが、リメイクとしては決して成功作ではないだろう。2人を海へと突き動かすモチベーションが、ストーリーの途中で見失われていて、ロードムービーとしての前に進む力が知りきれトンボになっているように思った。また、勝人と春海、怪しい組織、警察という3本の軸が上手くからんでいなかったのは残念。最大の難点は、オリジナル版からのキャラクターの移し変えが上手くいっていないところ。特に長塚圭史演じる組織のボスの造形の薄っぺらさには辟易した。お前はどこの中二・・・と思わず遠い目をしたくなるくらいひどい。よりによって、優れた劇作家でもある長塚にこんなセリフ言わせるなんて・・・。彼は本作出演者の中で一番割りを食ったのではないだろうか。
 オリジナル版はロードムービーであると同時にバディムービーでもある。本作(リメイク版)を見て、男女ペアだとバディームービーにはなりえないのだろうかとがっくりとした。いくら年齢差があっても、2人の関係がバディではなく恋愛感情的なもの、もしくは女性が母性で男性を包むというような関係になってしまう。14歳だと、(特に女の子は)さほど子供って感じではなくなるのも要因だろうが。
 ところで本作、そもそもなぜ「青年と少女」という組み合わせにしたのか謎だ。オリジナルをまんまリメイクするのも何だから・・・ということだったのかもしれないが、戦略的に失敗していると思う。オリジナル版がどうこうではなく、集客力として。長瀬をキャスティングした時点でもう1人ジャニーズから引っ張ってきていれば、集客力倍増じゃないですか。少なくとも福田よりは客が呼べそう(客層は絞られるけど)じゃないですか。なお、本作最大の敗因はアンジェラ・アキによるKnockin' on heaven's doorの日本語カバーだろう。どこをどうすればそうなるのか。