ポール・オースター編、柴田元幸他訳
作家であるオースターが、一般のリスナーから募集し、ラジオで朗読した実話の数々をおさめたもの。一歩間違うと「3分間で泣けるイイ話」的なお安いものになりかねないが、そうはなっていないのはオースターの選択と編集のセンスがいいからだろう。いい話だけでなく、結構イヤな話、痛切な話、笑える話、オチのない奇妙な話等、全体のバランスがとれている。しかし不思議な偶然や神秘的な体験の話が予想以上に多くてびっくりした。「虫の知らせ」等は本当にあるのだろうか。なお「実話」というのはあくまで投稿者の自己申告。フィクションという可能性もある。しかしそれでも本書の良さはゆらがないだろう。話の数だけ人生があり、世の中には不思議なことがしばしば起こると感じられれば、本著は成功しているのだと思う。