無敵艦隊を英国軍に撃破され、勢いを失いつつあった17世紀のスペイン。マドリード一の傭兵と評判だったディエゴ・アラトリステ(ヴィゴ・モーテンセン)の戦いを描く。監督は『ウェルカム!ヘヴン』のアグスティン・ディアス・ヤネス。もともと学生時代に17世紀の歴史を学んでいた人だそうで、セットや衣装、小道具などへのこだわりが感じられる。美術は見ごたえがあった。
 いくつかのエピソードを順番に見せていく構成で、どうもとりとめがないなーと思っていたのだが、原作はスペインの人気冒険小説シリーズで、5巻までの主要なエピソードを映画化したものらしい。大長編のダイジェスト版のようになってしまっているのはそのせいか。ひとつひとつのエピソードはそれなりに面白いのだが、映画全体で特に盛り上がるところがないのが残念。また、史実をかなり織り交ぜているので、多少スペインの歴史を知っていないとついていけないかもしれない。
 事前の宣伝や予告編では、アラトリステは英雄、孤高の人とされていたが、映画本編を見ると、むしろ雇われ人の悲哀みたいなものを感じた。彼はあくまで傭兵であり、貴族たちからはそれほどいい扱いはされない。彼のパトロンである貴族がなかなか金を払わず困るというエピソードがあるくらいだ。一方で彼は雇い主である国に忠実な義理固い人物であり、それ故、国の金をネコババしようとした傭兵仲間を手にかけなければならなかったりもする。また、義理の息子は女官にたぶらかされて言うこと聞かないわ、付き合っていた女は国王にとられるわ、ヒーローのはずなのにあまりいい目を見ていない。
 それでも愚痴は言わずに課せられた仕事は黙々とこなし、傭兵なりのプライドを維持しているところが、原作人気の一因なのかなと思った。現代サラリーマンの共感を呼びそうでもある。彼はスペインに対して愛想を尽かし、他国へ逃げる、もしくは雇い主を変えることも可能だったはずだが、そうはせず、あくまでスペインの為に尽くす。それが国王はボンクラ、王を傀儡として操る伯爵は強欲な国だったとしてもだ。その筋の通し方は、合理的ではないかもしれないが、潔い。
 監督も出演者もスペイン人のれっきとしたスペイン映画なのだが、主演のヴィゴはアメリカ人という不思議な作品でもある。もちろん全編スペイン語でヴィゴもスペイン語を話しているのだが、(たぶん)流暢で不自然さはない。見た目もスペインの剣士にはまっている。この前はロシアマフィアだったし、この人だんだん国籍不明になっていくな・・・。