『ウォーターボーイズ』の矢口史靖監督がおくる新作映画。「主演・綾瀬はるか」と大々的に宣伝していたが、確かにキュートだがさほど存在感はないし、ストーリー上特に重要な役柄というわけでもない。むしろ特定の主人公を持たない群像劇としての側面が強い。予想以上にバランスがとれており、監督の手癖が薄いのでおどろいた。
 機長昇格への最終試験となる実機(もちろん乗客付き)操縦に挑む副操縦士(田辺誠一)、その試験教官として同乗する機長(時任三郎)、国際線は初めてのCA(綾瀬はるか)、その上司となる厳しいと評判のベテランCA(寺島しのぶ)、整備にかり出された若手整備士や地上勤務のグランドスタッフ、管制官にバードパトロール等等、空港と旅客機内で働くさまざまな人々が登場する。なるほど飛行機はこうやって飛んでいたのか!と目からウロコ。お仕事紹介映画として大変おもしろい。さすがANAが全面協力しているだけあって、丹念に取材したのがわかる。監督自身も結構飛行機好きなのではないだろうか。
 旅客機の不調と大型台風の接近というトラブルをいかに乗り切るかというストーリーではある。しかし実は、物語内の時間は数時間でさほど長くは無く、飛行機が飛び立って戻ってくるだけなので、それほどスケールの大きいストーリーでもない。しかしちゃんとハラハラドキドキさせ、映画を見たというスケール感がある。各キャラクターが課題を与えられそれをクリアするというカタルシスが得られ、その配置バランスもいい、さらに個々での課題クリアというだけでなく、「チームもの」としての充実感もある。特に岸辺一徳率いる管制官たちの奮闘には、ついつい盛り上がってしまった。岸辺がいつになくイイ感じで、ファンとしてはうれしい限りである。また、苦労性のグランドスタッフ役の田畑智子が持ち味のまじめさとコミカルさを発揮していて大変キュートだった。彼女にも最後、ちゃんとフォローがあるのがまたうれしい。
 ただ、個々のキャラクターがあくまで「キャラ」であり、表層的である、深い人間ドラマがないという指摘はあるだろう。しかし本作は人間ドラマを目指した作品ではないと思う。空港のお仕事を見せる、その中でワクワクドキドキさせホロリとさせるというのが第一の目的であるので、登場人物は物語を機能させる「キャラ」であればいいのだ。見た後は満足感が得られるが、全く余韻が残らない、「そういえばどんな話だったっけ?」となるのも、娯楽映画としてはむしろ美点だと思う。