ロス・マクドナルド著、小笠原豊樹訳
探偵リュウ・アーチャーのもとに持ち込まれた相談は、依頼者の娘の交際相手の調査。その娘・ハリエットは自称画家の男・デイミスと結婚すると言って家を飛び出したのだ。彼女は25歳になると多額の財産を相続するという。デイミスは財産目当てなのか?心理学的な解釈にはさすがに古臭さがあるが、家族だからこそ生じる愛憎は時代に左右されにくい題材だと思う。特に、ハリエットが父親に似て不美人であるという設定は、意地が悪いといえば悪いが妙に説得力がある。ちょっと身につまされるわ・・・。また、アーチャーは典型的なハードボイルド小説の探偵であり、あくまで事件を観察する目という側面が強く、実はタフなヒーローというわけではない。自分が当事者になることはできないのだ。「わたしは今でも好感を抱いていますよ。しかしそれはわたしの問題です」というセリフに彼の存在のあり方が象徴されていると思う。