アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで食堂を営むオリンダ(リタ・コルテセ)。彼女は商売をやめ、食堂を売りに出そうとしていた。そんな時、ドイツからの旅行者ペーター(アドリアン・ウィッケ)が転がり込んでくる。彼はかつての恋人が忘れられずブエノスアイレスまで追ってきたのだが、泥棒にあって一文無しだった。見かねたオリンダは彼を店に寝泊りさせる。監督はパウラ・エルナンデス。日本では期間限定上映のようだが、なかなかじんわりとくる佳作だった。
 食堂が舞台なのだが、料理があまり出てこないし、また出てきてもあんまりおいしそうではない(笑)。このへんはちょっと残念だった。そこそこお客は入っているのだが、オリンダは妙にけんか腰だし、ウェイターの態度もつっけんどんだし、大丈夫なのか?という気分になってくるのはご愛嬌。店の雰囲気はいいので、そういうところも含めて地元になじんでいる店なんだろうなと思える。
 オリンダは食堂を手放すかどうか、正直なところ迷っている。しかしペーターが現れたことで、一つの区切りをつけるのだ。またペーターも、店の常連客らと接することで、やはり一つの区切りをつける。それはほろ苦いことでもあるが、人間いくつになっても一歩を踏み出せるぞという希望を感じさせた。思ったようにいかなくても、それはそれで悪い結果だとは限らないのだ。オリンダと男性常連客との微妙な関係の顛末も、初々しくてなんだかほほえましい。
 ペーターはある人を追って異国にやってきたが、オリンダもかつてある人を追ってブエノスアイレスにやってきた。彼女はイタリアからの移民なのだ。そうえばブエノスアイレスは、移民が多い町だったんですね。オリンダはすっかりブエノスアイレスになじんでいるが、故郷を忘れたわけではない。またペーターも親とのしがらみがあり母国には複雑な思いがあるようだが、それでも自分の故郷を「美しい町」と言い切る。人間、故郷を忘れるのはなかなか難しい。しかし同時に、人間どこででも生きてはいけるというたくましさも感じる。
 ところで「あまりおいしそうではない」と前述した料理だが、唯一おいしそうに見えたのが、オリンダとペーターが一緒に料理をして次々に食べていくというシークエンス。料理は誰かと一緒に作って食べるのが一番おいしく感じられるかもしれない。