アートアニメーション作家であるクエイ兄弟の回顧展。今回はCプログラム「夢遊病者の為の回廊」を見てきた。

『人工の夜景』(1979)
 クエイ兄弟の処女作であり、彼らが注目されるきっかけとなった作品だそうだ。しかし後の彼らの世界が既に確立されている。地下室に住む男はわずかに見える外の景色を眺め、外の世界を想像する。廃墟のような町を走る電車とパンタグラフ、無人の駅に細面の男と、なんとなくデルヴォーの絵を思わせるような組み合わせだ。ガジェットだけでなく、虚構の中で更に虚構を夢見る人という構図は、彼らの作品にはしばしば使われるように思う。同じモチーフを繰り返し描くタイプの作家なのか。上空からの俯瞰図があるのはストップモーションアニメとしては珍しいかもしれない。

『アナモルフォーシス』(1991)
 ルネッサンス期に発明された絵画の技法であるアナモルフォーシスを、クエイ兄弟が解説する。いわゆる騙し絵・隠し絵の類が出てくるが、取り上げられた作品の中には見たことがあるものもあり、ちょっとうれしい。意外にも正しく「教育番組」になっている。クエイ兄弟自身が極端な遠近法を好む人達ぽいので、この題材にも興味があったのか。

『ファントム・ミュージアム』(2003)
 サー・ヘンリー・ウエルカム氏のコレクションを亡霊が案内。基本的に実在のコレクション紹介映画なのだが、そのコレクションの内訳が死とセックスに直結したものばかり。ミイラや立体春画とでも言うべきオブジェ、立体人体解剖図(木造なのがすごい)、貞操帯や出産用(堕胎用かも)椅子など、よくこんなもんばかり集めたよなと唸った。単純に博物館的にも面白い。しかし、これらの所蔵物を使ってアニメーションを作れるなんてある意味豪華。役得ですね。

『イン・アブセンティア』(2000)
 Cプログラム内で最も狂気に満ちている。手紙をずっと書き続ける女性。しかしその手紙は誰に向けたものなのか?その相手とは実在するのか?ある療養所に入所していた実在の女性をモデルにしたそうだ。なお、現代音楽作曲家であるシュトックハウゼンとの共同制作作品となるので、スコアはオリジナル。これがまた不安を煽る。こわいです。