毎日上司にいびられ、彼女には浮気され、冴えない日々を送るウェスリー(ジェイムス・マカヴォイ)の前に、謎の美女フォックス(アンジェリーナ・ジョリー)が現れる。彼女が所属する暗殺組織へスカウトしに来た、彼の父親も優秀な暗殺者だったと言うのだ。組織に入り修行を積んだジェフリーは、父親を殺した犯人でもある組織の裏切り者・クロスの暗殺指令を受けるが。監督は『ナイトウォッチ』のティムール・ベクマンベトフ。
 「あなたは特別な存在ですごい才能があるの!」と突然告げられるという、冴えない少年少女の夢(というか妄想)をまんま具現化したしたような話なのだが、ここまで思う存分やられるとむしろ何かがふっきれていて楽しい。CGを駆使したアクションの数々は、とにかく見た目に気持ちのいいアクションシーンを作りたいんだよ!という気合がみなぎっているもの。こういうアクションも、ツボさえ押さえていればちゃんと肉体性を感じさせるんですよね。そのあたりは監督(もしくはCG作製スタジオ)のセンスがいいんでしょうね。ただ、いわゆる洗練されたスマートなアクションエンターテイメントというわけではなく、色々とトゥーマッチでエグみがある。むしろ悪趣味だと言ってもいい。粘土こねくりまわして指紋べたべただけど造形的にはオッケー、むしろ味がある!という、キャスティングは堂々たるハリウッド映画なのにどこかハリウッドぽくない臭いがする。そもそもあの「爆弾」起用した時点でハリウッド的じゃないわな(笑)。
 最近のヒーロー映画とかアクション映画とかは、比較的リアル路線というか、現実との摺り合わせに苦慮している傾向があると思うが、本作はそのへん屈託がない。設定にしろストーリーにしろビジュアルにしろ、「こうなるんだからこれでいいの!」で押し切る。照れが全くないのだ。「血筋がいいから修行したらすぐ強くなる」「修行で大怪我しても回復風呂(つかると回復する。昔のRPGにありそうだ・・・)」「気合で弾が曲がる」など実も蓋もない設定を堂々とやっちゃうところが好ましかった。屈託がないといえば、倫理面に関しても屈託がないというか、動物愛護関係のところとか、赤の他人を平気で巻き込んでいることに、全くフォローがないところが興味深かった。
 さて、ちらほらと本作の感想を目にすると、前半は爽快だが後半がもたつくという意見が多いみたいだが、私は後半の方が面白かったなぁ。もちろんアクションに関して最大の見せ場が後半にあるのだが、アクションがというよりも、ウェスリーにとっての世界が反転してしまうところが。スカウトされて反転し、ある事実が判明してまた反転する、ねじくれた構造になっているのだ。なんで暗殺集団にスカウトされたのか、というミスリードにはちょっとウキウキしました。第二弾を作れそうな余韻のある終わり方だが、アンジェリーナ・ジョリー再登場は望めなさそうだから、集客的に難しいか。
 余談だが、テレンス・スタンプが出ていておどろいた!何か得した気分になった。