平和を確認するためのショーとしての戦争が一般化した世界。戦争に出る兵士は「キルドレ」と呼ばれる、永遠に10代半ばで年を停めた少年少女たちだった。そのキルドレであるユーイチ(加瀬亮)は兎離州基地に配属されパイロットとなる。同僚のトキノ(谷原章介)はなぜかユーイチを知っているような素振りを見せる。やがてユーイチは基地指令のスイト(菊池凛子)のことが気になっていくが。
 押井守監督の新作は、森博嗣の同名小説の映画化。SF色が薄い作品は久々ではないだろうか。そのせいというわけでもないだろうが、押井作品としては異例の分かりやすさだ。撮影も(空中戦以外は)スタンダードな実写映画に近い印象を受けた。そして異例のセリフ長回しの少なさ。特に長いと思われるのは、終盤のスイトのセリフくらいではないだろうか。一般に向けた間口は広くなっているが、押井ファンには薄口で物足りないということになりそう。むしろ本作は、キャラクターデザインと作画監督をした西尾鉄也の作品としての側面が強い。彼の代表作になったといってもいいだろう。シンプルかつ無機質なデザインなのだが、動きの表情の付け方が繊細。この映画のエモーショナルな部分は脚本ではなく西尾の作画によるところが大きいと思う。子供(見た目が)が大人の言動をするという危うさ(ユーイチが水商売の女性と寝ているシーンとかそうとう危ういと思う)をヤバくなりすぎずに描けたのも、無機質な西尾絵ならではかと思う。また、押井作品としては例外的に「普通にかわいい少女(具体的にはスイトの妹)」が登場する。顔の表情の付け方というより、動作でかわいさを出すのが西尾の特徴ではないだろうか。
 キルドレは戦闘の中でしか死ねない。戦闘が終わってしまえば代わり映えのない日常が延々と続くのだ。往年の押井ファンなら、これは『うる星やつら ビューティフル・ドリーマー』と同じではないかとすぐに思い当たるだろう(女が無茶言って男を振り回すというのも同じといえば同じか)。ただ、『ビューティフルドリーマー』では「お祭りには終わりが来る」と受け入れて日常に戻るのだが、本作では「戻る」べき日常がない。戦闘中をお祭り、基地での代わり映えのしない日々を日常と呼ぶことはできるかもしれないが、その日常ですら永遠に終わらないという意味では非日常だ。この出口なし状態に彼らは倦んでいく。終盤でユーイチがつぶやく言葉、スイトの決意がわずかな突破口になるか。しかしこれを突破口と呼び、この結末を若者に向けて作ったというのでは、あまりに希望がないというか、むしろ地獄が延々と続くんだよ、「あちら側」にすら行けないないんだよと告げている気もする。
 空中戦シーンは3D、キャラクターと地上での生活は2D。それぞれきれいに作ってあるし、違和感は感じなかった。むしろ、機体とコクピットのキャラクターの絵の摺り合わせなどはかなり上手くいっていたのではないかと思う。飛行シーンは予想範疇内のきれいさ。ただ、夜間飛行には自分でも意外なくらいぐっときた。飛行シーンというと青空に白い雲!みたいなイメージが強かったけど、夜景もいい。
 また、基地周辺はイギリスの田舎のイメージか?と思ったらアイルランドがモデルだった。また中盤で出てくる町はポーランドがモデルだそうだが、映画世界内の公用語は英語らしい。イメージのいいとこ取りみたいな感じだが、ちょっとあからさまにいいところを組み合わせすぎたかなという感がなきにしもあらず。基地周辺の田舎の風景は本当にきれい(行ってみたくなる)し、路面電車が走る暗い町なども魅力的だ。でもやりすぎかなと。
 プロの声優ではなく俳優を起用したキャスティングは例によって賛否両論だろうが、私は全員よかったと思う。加瀬のとつとつとした感じは、感情をあえて抑えているユーイチにはまっていたし、舌ったらずな菊池の声もアンバランスでいい。一部ですごい拒否感をもたれているみたいだけど、なんでかなー。わからないわ。特に上手いと思ったのは谷原。あえて軽薄に振舞うトキノの空疎な感じまで出ていた。